昨日の午前10時ごろ内科医院から電話がかかってきた。89歳男性で2日前の夜から腹痛があり、その医院は今時珍しい有床診療所なので、入院させて点滴をしていたそうだ。腹痛が続き、検査結果で白血球増加があるので、診てほしいという。腹痛の部位は右上腹部だが、右下腹部にも痛みがあるという。胸部X線でありそうだが、と言われた。救急車で送られてくることになった。
その日は外来がなかったが、経過をみるために受診の予約を入れていた患者さんが2名いた。ひとりは後頸部痛と発熱で先週の土曜日の夕方に受診した高齢の女性だった。日中整形外科を受診したが、湿布だけ出されたが、痛みが続くために当院の救急外来を受診した。意識は清明で、神経症状はない。頸椎のCTを撮影すると、第二頸椎の歯突起周囲に石灰化を認めた。頸椎の偽痛風、いわゆるCrowned dens syndromeだった。NSAID(セレコックス)を1週間分処方して経過をみることにしていた。その日は頸部痛が軽快して回らなかった首が回るようになっていた。セレコックスを2週間分追加した。もうひとりは心臓血管外科で右側大動脈弓で経過をみている中年男性で、高血圧症の治療を内科に依頼されて受診していた。高血圧症の程度としては軽度だった。二次性高血圧症を鑑別するための検査をしたが、二次性高血圧症は否定的だった。血圧自体はARBのミカルディス20mgで正常域になっていた。自宅近くの内科医院(上記の患者さんを紹介してきた医院)がかかりつけなので、そこへ紹介状を書いて治療継続を依頼した。
救急車が到着した。意識は清明でバイタルサインは問題なかった。右腹部の上から下まで硬かった。どちらかというと下腹部だメインだと判断された。さて、この腹部所見をそう表現するかだ。当然圧痛はある、軽く指で叩くとひびくという。percussion tennderness陽性で、これ反跳痛ありと同じことになる。慎重に少しずつ押していくと、デファンスありとしてよい判断してよいと思われた。発症から1日半以上経過していて、熱も38℃となると、虫垂炎が穿孔をきたして、限局性腹膜炎を起こしている可能性がある。白血球数12000、CRP17と炎症反応も上昇していた。ただし。胸部X線で両側下肺野に肺炎が疑われるので、腹部だけの炎症をそのまま表しているわけではない。腹部造影CT検査を行うと、虫垂が腫大して壁肥厚もあり、内腔に糞石を3個認めた。意外に腹水はなく、穿孔はしていなかった。回盲部が通常より上にあり、虫垂も臍の高さから右側腹部に出ていて、右上腹部から下腹部にかけての症状となったことと一致する。さっそく新患担当の外科医に連絡して診てもらった。急性虫垂炎として緊急手術となった。腹腔鏡の得意な外科医で、腹腔鏡下で行うという。手術開始が午後1時半なので、終了が勤務時間内にきっちりおさまるちょうどいい時間の手術になった。