なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

便秘で救急搬入

2021年11月30日 | Weblog

 昨日の月曜日は外科医が当直だった。午前2時過ぎに73歳男性が救急搬入されていた。

 2週間前から便秘が続いているという。3日前から尿も出にくくなって、食事もとれなくなった。泌尿器科クリニックを受診して、前立腺肥大症として処方を受けていた(本人の話)。

 寝ようとしたが、肛門痛が強くて救急要請したという経緯だった。搬入時には肛門から硬便が出ていた。胸腹部CTで、直腸から肛門に大きな硬便がたまっていた。S状結腸にも便はあるが、大腸全体に大量というほどではなかった。

 CT上明らかな大腸癌は指摘できない。便のたまり方からみて、大腸癌ではないのだろう。直腸内の便が排出されれば、その後は排便が期待できそうだ。

 問題は別にもあって、血清PSAが11と高値だった。前立腺癌が疑われ、当院の泌尿器科(非常勤)に相談されるのだろう。(泌尿器科クリニックでも外注で提出しているはず)

 胸部CTで右肺に軽度に肺炎もあるが、これは自然に(自力で)治ってきているところなのかもしれない。

 

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問題のある肺炎

2021年11月29日 | Weblog

 先週末は内科の別の先生が当番だったので、新規入院の担当にはならない。それでも入院中の患者さんが誤嚥性肺炎で発熱したりして、2件ほど指示依頼が病棟から来ていた。

 この週末は新規入院が1名だけだった。土曜日の日直だった消化器科医が、肺炎の54歳女性を入院させていた。内科扱いにはしないで主治医となっていた(もともと一般内科も診ている)。

 年齢も比較的若い方なので、抗菌薬投与で問題なく治ると判断したのかとも思ったが、そうではなかった。既往歴と今回の病状両方に問題がある。

 4年前に脳出血(右視床出血・脳室穿破)を発症して、地域の基幹病院に入院していた。その後当院の回復期リハビリ病棟に転院してきた。(発症時の頭部CTと、今回の頭部CT)

 退院後は主治医だった神経内科医の外来に通院している。もともとの高血圧症の処方と、症候性てんかんで抗けいれん薬の処方もあった。

 現在も喫煙者で、胸部CTでは気腫性変化が目立つ。そして右上葉の肺炎だが、肺門部から出る気管支に腫瘤像があった。肺癌としれに伴う閉塞性肺炎が疑われていた。

 入院後は抗菌薬投与で解熱傾向となり、食事摂取もできている。肺炎治癒後は、地域の基幹病院の今度は呼吸器内科へ紹介することになるのだろう。

 

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講演料を節約

2021年11月28日 | Weblog

 感染管理加算をとっているので、年に2回感染症の院内勉強会をしなければならない。さらに抗菌薬適正使用の加算もとっているので、抗菌薬の勉強会も年に2回行う必要がある。

 院外講師に来てもらうと講演料がかかる。医師の場合は大学教授で10万円、准教授で7.5万円、それ以外は5万円という院内の規定があるそうだ。他の病院に合わせているので、相場なのだろう。東京から呼ぶと、交通費もかかるので、プラス2万円ちょっとになる。

 当院は絶賛経費節約中なので、大学教授を呼んでくれと事務に言いにくい。感染管理で月1回来てもらっている先生は、最近複数の学会で新型コロナウイルス感染症の講演をしていた。講演内容は出来上がっているので、たぶん依頼すれば講演してもらえるはずだ。

 経費節約のため、自前で勉強会をすることになった。ICTメンバーで医師は当方だけなので、「先生お願いします」となった。やはり新型コロナの話と、抗菌薬の勉強会も兼ねてやりたいので、抗菌薬の話もお願いします、という。 

 新型コロナの話は、忽那賢志先生のYahoo Newsをずっと見ているので、そこからまとめることにした。西村秀一先生のエアロゾル感染の話も付け加えると、30分くらいになる。

 さて、抗菌薬の話は何をしたらいいか。時間は仕事終わりの午後5時30分から開催するので、新型コロナで30分使うとあとは15分くらいの話になる。

 聴きに来るのは主に看護師さんなので、看護師さんの参考になる話をしなければならない。感染管理の看護師さんに訊くと、一般的な看護師さんはあまり抗菌薬ことは知らないという。

 市販薬の名前と使い方(作り方?)は詳しいが、どういう系統の薬なのかはあまり考えていないらしい。どういう分類のどういう位置づけにある抗菌薬かわかる(ような気がする)話をすることにした。

 

 抗菌薬の実際の使い方は、岡秀昭先生の「プラチナマニュアル」を見ている。しかし、抗菌薬の全体像を掴むのには、矢野晴美先生の「抗菌薬初めの一歩」が最適だ。新製品が出てちょっと内容を修正しているようだが、2010年に初版が出たままになっている。さすがにそろそろ第2版に改訂してほしい。

 

絶対わかる抗菌薬はじめの一歩―一目でわかる重要ポイントと演習問題で使い方の基本をマスター

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アタラックスP

2021年11月27日 | Weblog

 水曜日の当直の時に、36歳女性が救急搬入された。午前0時を少し回ったところだった。

 症状は午後8時ごろから始まっためまい、嘔気、頭痛ということだったが、一見したところは過呼吸だった。手指がしびれるという。看護師さんがもっとゆっくり呼吸して、と呼び掛けていた。

 嘔吐があるので、横にしたり、ガーグルベースを当てたりしていたが、すみませんと小声で答えている。当初は精神的に問題のある方ではという気がしたが、そうではないようだ。

 頭痛と言っても突発したものでもなく、それほどではないらしい。めまいは回転性ではなく、ふらつくということだった。嘔気・嘔吐の方が主症状のようになっている。といって腹痛はなかった。血圧、心拍数、体温、酸素飽和度などのバイタルは問題ない。

 その日はすでに、急性腎盂腎炎の高齢女性と頭部打撲の超高齢女性(98歳)を入院させていた。最近の当院は時間外の入院はゼロか1名程度なので、当直の看護師さんとしては3人目の入院か(今日は当たる日だ)と思っていたろう。

 点滴をして、吐き気止めの注射(プリンペラン)をした。全体的には不安・興奮で夢中になっているという印象だったので、アタラックスP点滴静注をして休んでもらうことにした。

 眠気が強く出過ぎることもあるが、ちょうどいい感じに落ち着いた。夫は県外に単身赴任で子供(すでに就寝)は姑にお願いしてきたので、家族は誰も来ていない。

 そのまま朝まで休んでもらって、朝の状態で検査を行うことにしていた。午前8時前に処置室に行ってみると、すっかり症状は消失していた。

 ふだん特に病気はなく、今回のようなエピソードもなかったようだ。今回おかしくなった原因はわからないが、子供が心配なので帰りたいと言う。家庭環境を詳しく訊く必要もなさそうだ。検査も不要だろう。

 2本目の500mlの点滴はまだ100mlしか入っていないが、そこで抜針して帰宅とした。

 

 この前メニエール病の男性が救急搬入された時にも、アタラックスP点滴静注を行った。叫ぶような嘔気・嘔吐がうまく治まっていた。

 アタラックスPの立ち位置がどうなのか専門家(精神科?)に訊いてみたいが、抗ヒスタミン薬で安定剤的に作用するが、不思議な薬ではある。

 

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MDS/MPN

2021年11月26日 | Weblog

 地域の基幹病院から転院してきた、大腸憩室出血を繰り返す96歳男性のその後。

 白血球増加・血小板増加があり、先方の病院で血液内科医(大学病院から週1回来ている)に相談していた。MDS/MPNが疑われるが、(超)高齢者であり、精査も躊躇われるのでそのまま経過をみるということだった。

 最初、骨髄異形成症候群(MDS)か骨髄増殖性腫瘍(MPN)のいずれかが疑われるという意味かと思ったが違った。骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍myelodysplastic/myeloproliferative neoplasm(MDS/MPN)というカテゴリーがあるのだった。

 確かに白血球増加・血小板増加があり、骨髄球・後骨髄球が見られる点では慢性骨髄性白血病を思わせるが、好塩基球は目立たない。貧血は憩室出血の影響があるので判断し難い。

 当院転院後も憩室出血が2回あったが、少し落ち着いたところで、骨髄穿刺を行った。解釈はできないので、検体採取後は検査会社に提出するだけになるが。

 結果は、そのまま骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍とされていた。骨髄穿刺をした意味があまりなかった。慢性骨髄性白血病ならば、慢性期の治療ができるかもしれないと思ったが、この結果ではやりにくい。

 幸いにその後は大腸憩室出血は治まっている。

 

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COPD末期か老衰か

2021年11月25日 | Weblog

 慢性閉塞性肺疾患(COPD、肺気腫)・慢性呼吸不全・在宅酸素療法の82歳が食欲不振・体動困難(仙骨部褥瘡)で先月入院した。

 身長150cm・体重25kgと、サルコペニアというか極端に痩せていた。明らかな肺炎はなく、COPDの終末期と判断されたが、酸素投与1L/分くらいで酸素飽和度を保てる(動けないので労作時の増量がいらない)。

 末梢静脈からの点滴をしながら、食事形態を工夫していたが、やはり食事摂取は進まなかった。全身状態から内視鏡検査もはばかられた。少なくともCTで見る限り、腹部に悪性腫瘍はなかった。

 甘いものは苦にしないので、チョコレート数個とアイスを少し食べるが、食事量は上がらなかった。エンシュアリキッドは好まず、飲めなかった。

 奥さんと二人暮らしで、在宅介護は無理と入院希望で連れて来ていた。夫婦の年金だけでは経済的には施設入所や療養型病床への入院は難しいということだった。

 疎遠だった息子さんに連絡して、病院に来てもらった。もし療養型病床へ入院となった場合は経済的に援助するという話が出た。

 全身状態としては老衰なのだろうと思われたが、簡単な会話はできる方だった。高カロリー輸液を行って、療養型病床への入院を目指すことにした。

 1日1000mlの高カロリー輸液製剤がちょうどいい量だった。幸い2号液に上げても高血糖にはならない。

 

 欧米では、食事摂取ができなくなった高齢者はそういうものとして自然に看取ると聞いた。経管栄養や高カロリー輸液を行うのは、かえって虐待ととらえられるそうだ。入院費が(超)高額なので、ナーシングホームで看取るという面もあるのだろう。

 日本では入院費が安く、高齢者が長期で入院できる。いわゆる老人病院は食べられなくなった高齢者を扱うことで成り立っている。療養型病床をもつ病院の看護師さんは、高カロリー輸液の方が経管栄養よりも手間がかからなくていいと言っていた。1日1回点滴を交換すればいいから。

 

 

 

 

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自力で排膿

2021年11月24日 | Weblog

 11月18日に記載した93歳女性のその後。

 先月に急性腎盂腎炎で入院して、軽快後に右鼠経ヘルニア嵌頓で地域の基幹病院外科に搬送した。手術はしてもらったが、消化管穿孔から腹膜炎を来して抗菌薬投与が継続された。

 急性期病院に長く入院はできないといわれて、治療途中で当院に転院してきた。転院した日に胸腹部CTで確認すると、両側胸水貯留・無気肺と腹腔内脂肪織全体の炎症像を認めた。

 手術をした右鼠径部に軟部組織陰影の塊があり、術後変化なのかなのだろうかと思っていた。今日病棟に行くと、昨日から右鼠径部からの排膿がありますと報告があった。

 確かに同部位に3~4mmの穴ができていて、排膿していた。穴の周囲は発赤がある。転院日にCTで描出されたのは化膿巣で、次第に液状化した膿瘍となり、うまく表面側に流れてきたようだ。

 当院の(ひとり)外科医に相談すると、外側に流れているのはむしろいいんじゃないか、と言われた。抗菌薬はまだ投与中で継続する予定だ。穴を広げたりする必要はないので、そのまま経過をみるようにということだった。

 利尿薬投与で浮腫は軽減して、嚥下調整食3を食べ始めている。自力で排膿する力があれば、しだいに全身状態として軽快してくるのかもしれない。

 

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大腸憩室出血

2021年11月23日 | Weblog

 高血圧症・高脂血症で内科外来に通院している79歳男性が、前日からの血便で月曜日に受診した。

 色は赤色から赤黒色だったそうだ。腹痛はない。健診で便潜血陽性となる、今年の4月に大腸内視鏡検査を受けていた。大腸憩室が上行結腸とS状結腸にあった。処置するほどではないとされた大腸ポリープも散在していた。大腸憩室出血が疑われた。

 腹部は平坦・軟で圧痛はない。直腸指診では普通便が付着してきて、血便はなかった。血液検査を行ったが、普段と比べて貧血もない。

 電話で受診したいという連絡が入った時は、大量に出血しているようなら地域の基幹病院に紹介しようかと思っていた。出血量はさほどではないので、少なくとも緊急性はないようだ。

 腹部造影CTで見ると、内視鏡の画像より憩室がよくわかる。S状結腸の憩室はまさに多発だった。造影剤の漏出はない。

 絶対入院というほどではないが、この患者さんは抗血小板薬(バイアスピリン)を内服していた。本人はあまり乗り気ではなかったが、家族が心配だという希望もあり、入院で経過をみることにした。

 バイアスピリンは休止する。ところでなぜ内服していたのかと、改めて確認した。13年前に一過性全健忘で入院した既往がある。症状とは無関係に左被殻などにラクナ梗塞が散在して、MRAで中等度の脳動脈硬化とされていた。

 以前、何となく抗血小板薬が投与されている患者さんが多く、問題にされた。(たまたま撮影した頭部CTやMRIでラクナ梗塞がちょっとだけあったので投与されたというような)今回は投与の根拠がないわけではない。それでもぜひ再投与を開始するかというと迷うことになる。

 

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メニエール病

2021年11月22日 | Weblog

 金曜日午前中の救急当番の時に、メニエール病と診断されている66歳男性が搬入された。

 他の病院に大腸ポリープに治療で入院していて、その日退院してきた。自分の車で自宅に戻る途中にめまい発作が起きたのだった。

 前日に違和感(耳閉感?)があり、その日の朝に耳鳴・難聴が生じたが、めまいは感じなかったそうだ。車を運転していて、めまい(ふらつき)が生じたので車を停めた。その後回転性めまいと嘔気・嘔吐が出現してどうにもならなくなったそうだ。

 救急室にはおえ~という大きな声?を繰り返しながら入ってきた。今年の3月に回転性めまいで神経内科と内科に入院していた。当初はBPPV扱いだったのかもしれない。その後、蝸牛症状があることから耳鼻咽喉科に入院するようになった。

 退院してすぐに再入院したりしている。耳鼻咽喉科には計6回入院していた。治療に難渋して、めまいの専門クリニックに紹介されていて、現在はそちらに通院している。最近4か月間は入院していなかった。

 診断は付いていて、症状も蝸牛症状を伴う回転性めまいだが、あまりに響き渡る大きな声でおえ~と言っていたので、念のため頭部CTを行ったが、頭蓋内出血(小脳出血)はなかった。

 型通りに、メイロン注・プリンペラン注を行ったが、症状は変わらず、アタラックスP点滴静注を行った。思いのほかに効いて、大きな声は出さなくなった。効きすぎかと心配になったが、声掛けにはちゃんと答えていた。目を閉じてじっとしている。

 家族は遠方から弟さんが来てくれた。何度も呼ばれて慣れているようだ。1日くらいで治まります、と言っていた。

 そのまま入院にしたが、翌日には症状軽減して食事摂取できるようになった。もう帰れると言うので退院にした。今週末にめまいの専門クリニックを受診する予定だそうだ。

 どんな薬が処方されているのか興味深かった。漢方の苓桂朮甘湯・イソソルビド・トラベルミンで、それに屯用のクロチアゼパム・プリンペランが処方されていた。標準的な処方?。

 めまいの専門クリニックでは、メニエール病+心因性めまいとなっていた。メニエール病自体ストレスと関係あるようだが、確かに症状がひどいので、二次的にも心因性の要素も加わりそうだ。

 

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エアロゾル感染

2021年11月21日 | Weblog

 新型ウイルス感染症はエアロゾル感染(空気感染)と認識すると、その感染の広がりや予防がよくわかる。通常の風邪やインフルエンザも同様なのだろう。違いはウイルスごとの感染力による。

 

最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明

 新型コロナウイルス感染拡大を受け,政府や一部医学関係者から「策が尽きた」との声が聞こえている.早期発見と隔離,ワクチン,緊急事態宣言等で用いられてきた対策以外に有効な施策がないとの意見には同意できない.彼らが感染拡大の可能性の指標とする人流は,たとえあったとしても,人と人の交わりの場において実効性のある対策がとられれば,必ずしも感染は広がらないはずである.

 その意味で,感染経路への理解が進み,空気感染が主たる経路であると考えられるようになっている現在,対応すべきことは明らかである.すなわち,最新の知見を踏まえれば,対策が尽きてしまったと言うほどのことはなされていない.未だ様々な方法が残されており,それらによる感染拡大の阻止は可能である.

 空気感染は主に感染者の口腔から空間に放出されるウイルスを含んだエアロゾル[1]が空間に滞留する量(濃度)に応じて起こる.理論的にもエアロゾル滞留濃度を下げることで感染抑止は可能なはずであり,少なくとも以下に挙げる2つ方向において対策の余地は大きい.

 

1)ウイルス対応マスクによる,口腔から空間に放出されるエアロゾルの量と,他者からのエアロゾル吸入の抑制

 ウイルス対応の,すきまの少ない不織布マスクは感染者からのウイルス排出を抑えると同時に,非感染者がエアロゾルとしてウイルスを吸入する確率を小さくでき,相乗効果があることは周知の事実である.一方で,若者を中心に広く使われているポリウレタン製のマスクや布製のマスクは,直接下気道に吸い込まれ肺炎のリスクを高める粒子径5μm以下のエアロゾルの吸入阻止に無力である.これもすでに広く知られていることであり,たとえば感染拡大時のドイツでは,公共の場や交通機関等では一定以上の性能を持つマスク着用が罰則付きで義務化され,ウレタンマスクの着用は禁止される.一方,わが国ではそうしたことに何の制約もないし,正式な呼びかけすらなされていない.日本でも,人流抑制やロックダウンの可能性を云々する前に,こうした効果の明らかな基本が徹底されるための措置を可及的速やかに実施すべきである.

2)滞留するエアロゾルの機械換気による排出,エアロゾル濃度抑制

 屋内で感染者から放出されたエアロゾルは長時間空間に滞留しうる窓開けやドア開けが有用な換気方法だが,1時間に2回程度の短時間の窓やドアの開閉では必ずしも十分な換気は確保されない.さらに,夏や冬は,冷暖房効果が大きく損なわれる危惧から窓開け換気の実施自体も容易でなく,今般の感染拡大の一因になっている疑いが強い.換気不十分の,複数の人が集まる狭い密閉空間では,発生するエアロゾルの空間濃度を下げるための工夫,すなわち熱交換換気や空気清浄機等を含めた機械的換気の適切な活用が重要となる.

以上から,私たちは国や自治体が以下の対策を速やかに検討するよう提起する.

A)ウイルス対応マスク装着[2]についての市民への速やかな周知と必要な制度的措置

B)熱交換換気装置や空気清浄機,フィルター等の正しい選択と有効な活用についての行政の理解と市民一般への十分な周知

C)効果の科学的証明には時間を要するため,最新の知見から有効と予想できる対策は,中立的組織による効果の検証[3]を平行しつつ,公平性や安全性に配慮して実施する

 私たちの手には現在,感染抑制に活用できる不織布素材,熱交換換気装置,空気清浄機,扇風機やエアコンに付加する形でのフィルター等,科学技術の成果がある.室内空気環境を専門とする建築学分野は,シックハウス症候群を端緒とし,医学界との共同研究の歴史を持つ.本声明で指摘した項目と,狭義の医学に留まらない科学知を総合した対策の検討と実施が,いま速やかに必要である.

以上 

2021年8月18日

世話人:本堂 毅(東北大学大学院理学研究科)

平田光司(高エネルギー加速器研究機構)

賛同者:西村秀一(国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター)他.

(2021年8月24日10時現在,最新版 http://web.tohoku.ac.jp/hondou/stat/

なお,本声明は研究者が個々の判断で行うものであり,所属する組織の公式の立場を表明したものではない.

事務局: 東北大学大学院理学研究科 本堂 毅

     hondou@mail.sci.tohoku.ac.jp

tel. 022-795-5823

脚注[1]  日本では分科会も含め感染制御の「専門家」と称するひとたちでさえ,正しいエアロゾルの定義がなされておらず,エアロゾルは気管挿管などの特別の手技でのみ発生するとの誤った説明もなされており,注意を要する.エアロゾルは空中に浮く粒子すべてとそれが浮いている空間の空気の総体をいい,通常の人間の呼吸や会話,歌唱,咳,クシャミなどの行為でも発生する

脚注[2]  屋外で一人で(人から離れて)散歩しているときはマスクの着用は不要である.

脚注[3]  中立的検討を経ず,都合よい自家成績だけを以て感染制御に有効であるかのように宣伝する行為が散見されるため.

 

飛沫・エアロゾルとの違いは?

AERA 2021年9月13日号より(画像:AERA編集部)
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