Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 3等A席

2007年09月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭 九月大歌舞伎 昼の部』 3等A席中央列センター

『竜馬がゆく 立志篇』
新作にしてはだいぶこなれた脚本でわかりやすかったです。あの長い話を無理に納めないで、オムニバスに仕立てたのはいい考えだと思った。また役者さんたちの勢いある芝居も見ごたえがありました。

坂本竜馬役の染五郎さんは線の細さを人好きのするほがらかさと素直な爽やかさでカヴァー。従来のイメージの竜馬からは少し外れるとは思うものの違和感なく演じていた。一幕目は若者らしい無邪気さがあって可愛いし、二幕目は中心にいる人物としての大きさがあり、また友人を死なすことになった土佐藩の現実を突きつけられ怒りを爆発させる部分に無念さと怒りの凄みがあり非常によかった。三幕目では素直さとおおらかさな明るさがあり以前より懐の深い破天荒な男を演じられるようになったと思う。

一幕目は竜馬と桂小五郎の出会い篇。いきなりこの場、というのは少々唐突感があったかな。でも竜馬の性格を印象つけるという意味では、桂小五郎との台詞のやりとりで明確になる。桂小五郎の歌昇さん、ちょっとイメージとは違うものの、冷静に大局を見極められるというキャラをまっすぐに。口跡のいい方なので、やりとりが明快でわかりやすい。だんだんに気心知れていく、というシーンがお互いらしい感じで良かった。また、竜馬を世話してるすぎ役の歌江さんがスパイスとして効いていて、楽しい場になっていました。

二幕目は土佐藩の郷士への差別への悲哀を描く。種太郎くんは真っ直ぐな気性の中平忠一郎役を頑張っていました。上士として忠一郎を侮蔑する山田広衛の薪車さん、きっちり敵役を演じていました。ここで上士の郷士への扱いをしっかり見せないと後が続かないので良い芝居。そして弟のために思わず向かっていってしまう寅之進に宗之助さん。ああゆう男ぽい役は新鮮。大人しい雰囲気の宗之助さんなので哀れさがあって私はいいと思う。高麗屋のお弟子さんの錦弥さん、錦一くんが暑苦しい郷士を熱演。この二人好きなのでつい目で追ってしまいます。

三幕目は勝海舟との出会い。この幕が一番面白かったです。丁々発止な芝居が好きなので(笑)勝海舟の歌六さん、台詞の聞かせ方が上手いです。江戸弁も心地よく明快。竜馬が勝の話に引き込まれていくのに説得力がある。歌六さん、染五郎さんの二人のやりとりにはピンとした空気が流れ気持ちを逸らさせない。

ラストはピンスポの演出。うーん、この照明はどうなのか?あざとすぎるような…。染五郎さんは独白芝居は上手いのでしっかり締める芝居。なんとなく奈落から船でも出てくるかと期待したけど、さすがにそれはなかった(笑)

全体的に『竜馬がゆく』はしっかり芝居として見せてきたと思う。ただなぜこれを秀山祭で上演したのかしら?という疑問符も。五月の吉右衛門座頭の演舞場での上演のほうがしっくりきたような気がしますが…。『鬼平』もやったことだし。それにしても主題曲には色んな意味で参りました(笑)。今から劇団☆新感線の芝居が始まってしまうのかと思いました。紗の幕に「竜馬がゆく 立志編」のタイトル、染五郎さんの目のアップ映像付き、みたいなのが、ばーんと降りてくるかと<半分期待した(笑)なぜ生演奏でやらなかったのかなあ。染五郎さんだったら生演奏にこだわる人なので生にしたと思うのだが。生と録音ではかなり印象が変わってきます。齊藤さん、あまり新派劇にこだわらないで、歌舞伎風味ももう少し大切にして欲しかったかな。照明の使い方も、もう少しフラットな照明にしてほしかった。フラットな照明で十分いけると思うし、もう少し歌舞伎ぽく見えたんじゃないかと。

演出家の齊藤雅文さんは新派出身なので演出が歌舞伎ぽくない部分が多々。歌舞伎では『ひと夜』、商業演劇の『信長』の演出もされています。歌舞伎という世界も大好きだけど新派の芝居を残していたいという想いも強い方のようです。そういう部分で確信犯的に今回の演出をしてきたんだろうと思います。齋藤さんなりのこういう演出も歌舞伎に取り込んでいってもいいのでは?という提示なのかもしれません。どうせやるなら新橋演舞場『竜馬がゆく』で3時間半くらいの芝居にしても良かったんじゃ…ともつい思ったりしましたが松竹としても歌舞伎座でやる意義というものの何かしら考えのあったことなんでしょうね。


『熊谷陣屋』
しごくスタンダードな『熊谷陣屋』を観たという感じです。自分のなかでなんですが。

熊谷の吉右衛門さん、安定感と大きさのある熊谷でした。骨太で揺るぎない。

義経役の芝翫さんの存在感が凄かった。上の立つものの威厳。そのなかに情を感じさせて非常にいい。

福助さんの相模はしっかりものという感じ。芝翫さんの台詞廻しにそっくり。雰囲気は歌右衛門さんにちょっと似てた。でも基本は芝翫さんのやり方でした。藤の方をかばう部分がきちんと伝わってきて、その部分が良かった。でもクドキの部分がまだこれから、ってとこですね。相模として観客の心に訴えかける、というとこがまだ薄い。

芝雀さんの藤の方、品格という部分がまだまだだし、全体の形ももう少し、なんですが、「母」の気持ちがすごーく伝わってきて存在感があったと思う。表情のひとつひとつが良かった。

富十郎さん、弥陀六としての存在感はやはり見事。元、武士としての気概がしっかり。だけど台詞の息継ぎがかなり頻繁でちょっとお辛そうな感じがあって…大丈夫かな?

『村松風二人汐汲』
華やかな二人の女形の華やかな舞踊。

玉三郎さんと福助さんの踊り、まったく正反対ですね。役者としての持ち味も正反対だと思うけど踊りもまったく違う。体のもっていきかた、扇子の扱いの間の違い、腰の入り方、ここまで違うかと。

この踊り、どうせならユニゾンなんて無視してお互いも持ち味を存分に生かして、火花散らしてほしいかも。お話的にそれでいいんだし。

この日は福助さんに遠慮がある感じでした。福助さんがかなり玉三郎さんを気にしながら踊ってました。今日、私には福助さんが菊五郎さんに似てるように見えた。顔つき、というか、踊り方が似てる気がしたんだけど?勘違いかな?