Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央上手寄り

2007年09月16日 | 歌舞伎
歌舞伎座『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央上手寄り

『阿古屋』
見栄えのする華やかな舞台でした。玉三郎さんの阿古屋の華やかさは勿論のこと、吉右衛門さんの大きさ、段四郎さんの濃さ、染五郎さんの爽やかさがいいバランスでした。それにしても吉右衛門さん、段四郎さん、染五郎さんの三人、本当にピタッと動かないでいますね。こういうところに役者の地力が見えます。

秩父庄司重忠@吉右衛門さん、存在感があります。裁き役として真摯に阿古屋に向かっているという風情があって良いです。また型のひとつひとつが丁寧で綺麗でした。時々、目が遠くなっているところがあるようでしたが(笑)

岩永左衛門@段四郎さんは人形ぶりの誇張のしかたが上手いですね。コミカルだけど軽くならないのが段四郎さんならでは。

榛沢六郎@染五郎さん、最初と最後以外は動かず座っているお役ですが瞬き以外ほんとに動かなかったです。しかも目がきちんと生きていました。

阿古屋@玉三郎さん、玉三郎さんの阿古屋は今回で3回目です。さすがに前回より着実にレベルUPしてきました。琴、三味線、胡弓の演奏で三曲ともきちんと演奏して聴かせることが出来る人はそうはいないでしょう。本当に大したものです。時々、三味線の伴奏と時々合わないのはご愛嬌。反対に三味線の伴奏が邪魔な時もありました。琴の演奏の時、三味線はいらないなあ、と思ったくらいに玉三郎さんの演奏が良かったです。また今回は特に胡弓が前回に比べかなりの上達していたと思います。阿古屋以外でも玉三郎さんの胡弓の演奏は2003年の『御所五郎蔵』の皐月で聞いていますが、段違いに上手くなっていると思います。奏法を少し変えてきたのか、肩の力が抜けたのか、安定感が増していました。

また演奏もさることながら、姿の美しさに磨きがかかっていました。隙がないというか、計算しつくされた絵のような姿でした。特に階段のところに身を投げ出すとこは本当に見事でした。思わず舞台写真を買ってしまいました。文楽の蓑助さんの阿古屋(人形とは思えない色気でした)を見てしまっているので「身ごもっている」という色気がもう少しあったら完璧なんだけどな、と少しばかり贅沢な注文もあるのですが、まあこれはほんとに持ち味の違いですから。ここ最近の玉三郎さんのなかでは個人的には阿古屋が一番の出来だと思います。

『身替座禅』
この演目はとにかく楽しいので好きです。

右京@団十郎さん、楽しそうに演じてるだけで私は満足でした。踊り、裾裁き、台詞回し等々、不器用な部分が多々ありますが、おおらかさがその足りない部分をカヴァー。見ていて気持ちのいいほんわかしたオーラがあったし、この演目に関しては「楽しませる」のが主眼だと思うのでそれでいいのです。

玉の井@左團次さん、柄の大きさで笑いを取ります。この方も不器用さのある役者さんですが無理なことをせずにストレートにやっているのが良かったです。もう少し可愛らしい部分を出してくれるとなお良いのですが。

太郎冠者@染五郎さん、飄々とした味わい。小手先に頼らず品よく演じてやはり見ていて気持ちいいものでした。主人に振り回されてのオロオロぶりは可愛いです。台詞回しも羽目物らしい味わいを終始きちんと保っていました。

小枝@右之助さん、千枝@家橘さんの二人がベテランらしい安定感。若手とは一味違い、とても良かった。またお二人とも想像以上に可愛らしさもありました。

さて、余談ですが今まで観てきた配役では玉の井は団十郎さんがマイベスト。個人的にもうこれ以上の玉の井はいないと思っております。もうほんと可愛い玉の井なんですもの。団十郎さんの玉の井、また拝見したいです。右京は菊五郎さんか吉右衛門さんのが好きです。

『二條城の清正』
こ、これは見ているのがキツかったです…。私の体調がよくなかったこともあると思うんですが、二幕目、三幕目のテンポがどうにもしんどい。一幕目は動きもあるし、わりと楽しんだんですけど…。

話の内容は悪くないというか、何を見せようとしているのはわかるのですが、どうにもこうにも見せ場が見せ場にならないというか。役者は皆しっかり演じていて悪くないのですが…。

吉右衛門さんは渋カッコイイし、福助さんは綺麗な公達だし、芝雀さんは存在感があるし、久しぶりに男女蔵さん良い感じですとか、桂三さんはちょっと出だけど何気に上手いとか、種太郎くんは可愛いとか、友右衛門さんとこの息子二人、頑張ってるじゃん(弟くんのほうが姿勢良し)とか、芝のぶちゃんやっぱ綺麗よねとか、その他諸々、個々に見るべきところはあるんですけど…。

どうにも今回は乗り切れないで終わってしまいました。2回目を拝見するときには体調を整えてしっかり見ようと思います。