Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立小劇場『二月文楽公演 第二部』 1等席前方センター

2009年02月14日 | 文楽
国立小劇場『二月文楽公演 第二部『女殺油地獄』』 1等席前方センター

二月文楽公演『女殺油地獄』を観てきました。『女殺油地獄』を文楽で観るのは200年公演以来2回目。この演目、やはり面白いです。「今」でも通じる話。あまりに酷い話なのでノワール系OKな人じゃないと精神的ダメージは大きいかも。親の心、子知らずというか、子が親や周囲の人の情をこれでもかと足蹴にする世界。それに殺しの場がリアルなんですよね…悲惨。 また同じ演目を見てみると物語優先な文楽でも語る人や操る人でかなり物語の解釈や情景が変わるというのが今回の発見でもありました。

それにしても文楽の与兵衛は性根がとことん腐っていますね。ほんとに酷い男です。今回、与兵衛を操ったのは勘十郎さん。2004年のときも勘十郎さんでしたが、今回のほうが悪さ度UPだった。まったく可愛げ無しです。前回はなんだかんだ親の愛情を感じている与兵衛だったと思いますが今回は、何を考えているんだか、わからない不気味さがありました。今回、勘十郎さん自身の顔も少々悪人面になってましたよ(笑)

桐竹紋寿さんのお吉さんがいかにも優しくてしっかりもののおかみさん。きっちりした女性なんだろうなという雰囲気。女というより母の顔のほうが強いので、殺される場にエロスが少ない。その分、悲惨な場だというリアルさが勝る。なんというかカタルシスがないんですよね。殺しの場が本当に単なる殺しの場。

今回、与兵衛があまりに人間味がなくて、お吉さんが心情を訴える余裕なく唖然としたまま殺されていった感じ。2004年の時はお吉さんの悲劇、だったけど今回はお吉さん一家に降りかかった悲劇という感じがしました。なんというか心情より情景のほうがクッキリしていたというか。前回2004年の時は殺しの場で与兵衛とお吉さんの1対1の関係性がみえたんですよ。だからかえってお吉さんの心情が浮かびあがってきた。蓑助さんが操ったお吉さんの存在感がそう感じさせたというのもあるでしょう。語りも情の部分が濃かったのかも。

清十郎さんの妹おかちのが楚々として可愛らしい。存在感があって、襲名して一皮剥けた感じがしました。

玉也さんの徳兵衛、玉英さんのお沢の夫婦がなんだかとってもよかった。単に甘やかしてるだけの親じゃないんだよね。そこら辺の具合がバランスいいというか。押さえぎみの表情に「親」の切なさがあったと思う。

床では「河内屋の段 奥」の呂勢太夫さん、鶴澤清治さんのコンビと「豊島屋の段」の咲太夫さん、燕三さんコンビがかなり良かったです。

呂勢太夫さん、こんなに語れる人だったっけ?と驚くほど。鶴澤清治さんの三味線のキレ味と深い低音がいつもながら見事。咲太夫さんはキャラクターの味付けが上手いというか、その時々の場の空気がとてもわかりやすくて、殺しの場に至る人の心の揺れや情景がしっかり伝わってきました。燕三さんは音色が多彩。