Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立小劇場『九月文楽公演 第二部』 1等後方下手寄り

2009年09月19日 | 文楽
国立小劇場『九月文楽公演 第二部』 1等後方下手寄り

劇場は満員御礼。第二部は人間国宝揃い踏みですから人気が高いのも当然。初心者らしき方々も多かったような気がします。まだまだ和ブームが続いているからかな? 第二部は『伊賀越道中双六』「沼津の段」、『艶容女舞衣』「酒屋の段」の二演目の上演。

『伊賀越道中双六』「沼津の段」
「沼津の段」は今年夏の歌舞伎巡業で観たばかりの演目。比べてみると歌舞伎「沼津の段」は本行に対し、入れ事がかなり多かった。ここまで歌舞伎独特の入れ事が多い演目も珍しいかも。歌舞伎はより華やかに、そして観客サービスの部分が多い。あと話の流れも少しだけ変えている。歌舞伎ver.のほうが道中のほのぼのと後半の悲劇の落差が激しく、その部分で泣かせてくる。文楽は物語が一貫しているので落差はないけど流れがとても自然で少しづつじんわりと泣かせてくる。

綱大夫さんは少し語りが弱い部分はあったけど平作が非常にリアル。住大夫さんはお得意演目というだけあって、場の情景を非常にわかりやすく、そしてそれぞれの人物の情の部分を丁寧に語ってくる。住太夫さんもやはり平作が一番良かったな。住大夫さんの細やかな語りで老父の切ないまでの心情がじわ~っと伝わってきました。この年齢だからこその説得力かな。十兵衛の理に勝る情に納得させられてしまう。


『艶容女舞衣』「酒屋の段」
この話、ハッキリ言ってひどい話なんですよ。なのに、「きーーーっ、ひどいっ」って思わなかった。なんでだろ?お園さんがあんなにも清らかだったからだろうか。

文雀さんのお園が絶品だった。とても可憐で純粋で、そしてとてもまっすぐに半七を愛している。その切ないまでの想いがキラキラと輝いていました。その透明感のある佇まいに「聖」を感じた。美しかった、その美しさに涙が出そうになった。ドロドロとした感情をすべて包み込んでしまったような存在。ラスト、お園さんが皆を抱擁しているようなそんな錯覚さえ覚えてしまった私でした。ああ、やっぱり文楽っていいなあって思った。文雀さんのお園は文楽だからこそ成り立つ「女」だったように思う。

嶋太夫さんの語りも良かった。文雀さんのお園に集中していくうちに嶋太夫さんの語りがしっかり耳に入ってきて語りと人形のバランスの良さを感じました。