Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

シアターコクーン『天保十二年のシェイクスピア』A席2階上手

2005年10月01日 | 演劇
シアターコクーン『天保十二年のシェイクスピア』A席2階上手

事前情報をまったく入れずにいたので音楽劇だとすら知らず、皆が歌いだして「えっ?もしやこれミュージカル?」と驚いたりして(笑)シェイクスピア全37品をすべて戯曲のなかに盛り込んだパロディ劇。4時間という長さがまったく気にならずかなり愉しみました。上等のエンターテイメントだったと思います。でもこの作品、シェイクスピアの主作品やバーンスタインの『ウェストサイドストーリー』を知ってないと面白さ半減かな?

シェイクスピア作品は『リア王』『オセロ』『ハムレット』『マクベス』『リチャード三世』『ロミオとジュリエット』『十二夜』『間違いの喜劇』あたりさえ押さえておけばほぼ楽しめると思います。もちろん全作品を知っているとなおのこと楽しいとは思います。さすがに全作品まったく知らない人はいないと思うのですが、シェイクスピア作品を知らなくてもエンターテイメントとして十分楽しめる芝居だとも思います。それにしても脚本のいのうえひさしさん、よくぞまあ、ここまでうまく組み立てたものです。ちょっと脱帽。特に言葉遊びの部分が素晴らしいね。いのうえさんの言葉遊びは時代性を感じさせない部分で書いているのがすごい。またハムレットの「To be, or no to be」の様々な日本語訳を取り込んでいたのも面白かった。今回上演するにあたってかなり削ったらしいですが、元の戯曲を読みたくなりました。もちろんシェイクスピア作品を読んでからの話になるでしょうが(笑)

そして、シェイクスピア作品のエッセンスをこれでもかと詰め込んだ芝居をしっかり天保12年の物語としてテンポよく4時間をまったく飽きさせずにきちんと見せた蜷川さんの演出に7月歌舞伎座の『十二夜』の演出はなんだったんだ?とちょっと思いました。やはり、歌舞伎というものに対して相当遠慮があったんじゃないのかなー。

その代わり、歌舞伎座の経験をかなり今回、活かしてきたのでは?とも思いました。かなり歌舞伎風味を取り入れていたのですが拍子木のタイミング、下座音楽の使い方、長方形の単純な座敷のセットの使い方等、かなり違和感なく使っていましたし、なんといっても早代わりの手法は歌舞伎のときよりかなりいい見せ方でした(笑)。また一人二役の吹き替えも今回のほうが自然。仮面も使用してませんでした。このほうが違和感無いのよね。まあ、いわゆる歌舞伎の見得や、文楽人形ぶりのシーンはさすがにほほえましいといった程度ですが…わざわざ使わなくてもいいだろうとも思う。伝統芸能を知らない人にとっては新鮮なのだろうか?

それと実は全体的に、劇団☆新感線のいのうえひでのり氏演出とコクーン歌舞伎『桜姫』の串田和美演出を洗練させて蜷川演出風味を加えた芝居という風にも見えました。要所要所で「ちょーん」と拍子木の音が入り、照明での場面切り替えは劇団☆新感線を連想させるし、劇中に案内人がいて座敷のセットをこきたない格好した農民が出し入れしテンポよく進める方法は串田さんの『桜姫』に似てるし。これって、たまたまってことなのかな?それとも蜷川さんが二人の演出を取り込んだのかな?。それでなくても芝居に歌に踊りに殺陣がありってことでどうしても劇団☆新感線と較べちゃう。確かいのうえひでのり氏は以前に『天保12年のシェイクスピア』をやってるんだよね。今回これ見たら確かに新感線向きの芝居だと思った。劇団☆新感線の芝居だよと言われても違和感ないと思う。それにしては随分スマートで洗練されてるけど。それでもお祭り騒ぎや猥雑もあるし、さすが蜷川さん長年商業演劇に携わってきたことだけはある。エンターテイメントとしての演出としてわかりやすく、それでいて泥臭くなくて洗練されて品が良い。

役者さんたちは皆さんかなりハイレベルで個々の力量に感心しました。伊達に豪華な面子を揃えていない。適材適所、皆さん活き活きと魅力的に演じていました。考えたら、皆さんセンターに立つ役者ばっかり揃えてきてるんだよね。彼らを観ててまるでストレスがかからないというのはかなり大きいね。喜劇として単純に楽しむ芝居なので感情の振幅をしっかり見せるものではないものの、台詞が明快で個々の登場人物としてのキャラクターとしてしっかり作りこんでいる。大仰な芝居がピタリとはまり、活き活きとした登場人物たちがそこにいた。私やっぱりある程度完成された芝居が好きなんだなーと思いました。

役者のなかでは木場勝己さんの緩急のうまさ、白石加代子さんの圧倒的な存在感が吉田鋼太郎さんの心情の出し方の上手さが印象的。唐沢さんは口八丁でのし上がろうとする前半がとてもよかった、後半はもっとギラギラドロドロした悪役にしてほしかったかな。爽やかさが邪魔をした感じ。篠原涼子が予想以上に上手く、特におぼこ系のほうが合っていたのが意外。殺陣はちょいとひ弱だったけど伝法な姉御もなかなか。藤原竜也は華があってとても可愛らしい。リズム感があやしく、殺陣がいまひとつ決まらないのが残念…腰が高すぎるせいか?。女形ぽくするシーンがあったのだがそこが色っぽかった。勝村政信さんはあくまで真面目に。そのシリアス一辺倒の演じ方が妙に印象的。この方は声が良いですねえ。