Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『五十周年記念十月歌舞伎公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第一部』』特別席センター

2016年10月15日 | 歌舞伎
国立大劇場『五十周年記念十月歌舞伎公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第一部』』特別席センター

面白かった!今回の場割のほうが好きですね。普段出さない場も面白いし、理解も深まるし。特にお軽、勘平のくだりは道行より文使いと裏門があったほうが良いと思う。道行は華やかだけどお軽、勘平の立場や苦悩がイマイチ伝わりずらいのですよね。

個人的には四段目がやはり眼目。四段目、梅玉さん判官の待ちかねようと、息せききった幸四郎さんの由良さんに涙が出そうになりました。あそこの場面、今までになくすごく劇的に感じました。

大序では塩冶判官@梅玉さんが格違いの佇まい。淡々としながらも鷹揚とした気質をさりげなく見せていく。刃傷では鷹揚さのなかのプライドを表出させていく。しかしなんといっても四段目。覚悟と内に秘めた激情、無念さをどうにか由良之助伝えたいとする待ちかねようが、手に取るようにわかり胸に迫ってきた。その巧さに感嘆。

由良之助@幸四郎さんのは相変わらず格好いいです。判官のみならず観客も待ちかねているだけの由良之助としての大きさがあります。幸四郎さんの由良之助は駆けつけました感が一番あると思う。とてもカッコいいのです。主君への想いの強さ、大局への判断の熟考ぶりからの一人、改めて決意する時の鋭さと運命に対する悲哀、そういったものを熱を持って演じていきます。間を詰めていくので観客が前のめりになって観てしまう芝居です

顔世御前@秀太郎さん、あまりこういうお役は拝見できないのですがさすがと言うしか。師直に恋慕される色気がありつつ、顔世としての芯の部分の格のありようが素晴らしかったです。四段目引っ込みは迫力で圧倒させられた。

本蔵@團蔵さんに老獪さがあり、家を守るための行動にためらいのなさをみせて二段目を出す意義をしっかりとみせてくる。戸無瀬@萬次郎さんは旦那を思う情味と、生さす仲の娘に対する可愛がりようが素敵でした。

若狭之助@錦之助さんの直情的ないらちぶりがよく判官との対照が生き、勘平@扇雀さんが真面目だけど押しに弱い二枚目を風情よく。ん鉄板なとこで師直/石堂@左團次さん、師直は品を崩さずに根は悪くなさそうな可愛げがあり、石堂は誠実味があり本役!薬師寺@彦三郎さんは押し出しよく敵役としてしっかりと存在。

斧九太夫@錦吾さんはすっかり当たり役になってます。家老としての格を崩さず九太夫なりの主君大事さをみせつつ、自己保身や金にうるさいずるさをみせる。鷺坂伴内@橘太郎さん、ほどのよいコミックリリーフぶり。原郷右衛門@友右衛門さん、大鷲文吾@秀調さんが誠実さをみせ、また年長者としての場の締め方もよく。皆さん、本当にいい芝居をしてたと思います。

若手では力弥@隼人くんが敢闘賞かと思う。若者らしい真っ直ぐさのある力弥。体の使い方がだいぶ柔らかくなっていてよく勉強したなと思いました。小浪@米吉くんも力弥大好きなおぼこで可愛いかったなあ。

混成チームで普段ならなかなか拝見できない配役だったりもしたけど、それがかえって役者さんたちの良いところが見える結果になったように思う。なかなか拝見できない場をやることの意義もそこにあったのやも。

<<配役>>
大星由良之助良兼:松本幸四郎
顔世御前:片岡秀太郎
早野勘平:中村扇雀
桃井若狭之助安近:中村錦之助
腰元おかる:市川高麗蔵
足利左兵衛督直義:中村松江
千崎弥五郎:市村竹松
大星力弥:中村隼人
佐藤与茂七:市川男寅
本蔵娘小浪:中村米吉 
高武蔵守師直、石堂右馬之丞:市川左團次
矢間重太郎:嵐橘三郎
鷺坂伴内:市村橘太郎
織部安兵衛:澤村宗之助
斧九太夫:松本錦吾
赤垣源蔵:大谷桂三
竹森喜多八:澤村由次郎
大鷲文吾:坂東秀調
本蔵妻戸無瀬:市村萬次郎
加古川本蔵:市川團蔵
原郷右衛門:大谷友右衛門
薬師寺次郎左衛門:坂東彦三郎
塩冶判官高定:中村梅玉