Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 1等2階前方上手寄り

2007年01月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『初春大歌舞伎 昼の部』 1等2階前方上手寄り

先日、夜の部をかなり面白く拝見したのですが昼の部もかなり見ごたえがありました。大満足です。舞踊『松竹梅』が軽い前菜、『俊寛』と『勧進帳』が食べ応えがあるメインデッシュ2皿、そして甘いデザートが『喜撰』という感じで思ったより演目並びも良かったです。『俊寛』は期待通りの味わいのある芝居で吉右衛門さんの持ち味が十分活かされた素晴らしい出来。『勧進帳』は期待半分、不安半分で臨んだのですが、予想をはるかに上回る緊迫した空気とエネルギー溢れる芝居でやはり素晴らしい出来。かなりおなかいっぱいになったところで『喜撰』の軽やかな洒脱な踊りで〆。ここまで満足できるとは思っていなかった。個人的に昼の部のほうが全体的に満足できたかも。

『松竹梅』
お正月最初の出し物としてのご祝儀舞踊。今月のために作られた新作だそうです。最近、新作舞踊も増えてきましたね~。個人的に良いことだなあと思っております。この舞踊は松、竹、梅とそれぞれの段に分かれています。

「松の巻」は業平がモチーフの舞踊。梅玉さんの業平が優雅で品がよく風情があってピッタリ。舎人の橋之助さんは丁寧に踊られていましたがちょっと大人しい感じがしました。

「竹の巻」奴と雀の舞踊。雀の踊りと衣装がいかにもで可愛らしい。信二郎さん、松江さん、高麗蔵さんの三人。それぞれ持ち味が違っているのが面白かったです。高麗蔵さんは舞踊家の踊りだなあと、目を惹きました。奴は歌昇さん、力強さとキレがありこういう踊りはお手の物です。

「梅の巻」曽我ものがモチーフ。女形三人の舞踊なので見た目も華やか。梛の葉の魁春さん、衣装がモダンで素敵で傾城衣装の二人に負けていません。大磯の虎の芝雀さんは品の良い踊り、化粧坂の少将の孝太郎さんは柔らかな踊りで好対照な雰囲気が良かったです。
            

『俊寛』
吉右衛門さんの俊寛はとても表情豊かです。とても望郷の念が強い俊寛のように思いました。人恋しい哀切に満ちていて、なぜ自分はここにいるのだろう?そんな思いが最初から伝わってくる。孤独感、仲間に対する思いやり、妻への思慕、絶望感、そんな心の揺れがよくわかるものでした。俊寛の心の内をひとつひとつ丁寧に演じることで、『俊寛』という芝居のありようが鮮明に描き出されていたと思います。また義太夫の清太夫さんの熱演との絡み具合も絶妙で。本当にいい俊寛を見たなあと感じさせていただきました。

段四郎さんの瀬尾も素晴らしかったです。敵役の押し出しの強さとともに、単なる「敵役」にならないところが上手さです。瀬尾はいやなやつですが彼なりの「理」がしっかりあります。そこが明快で物語に深みを持たせます。段四郎さんのアクの強さが義太夫狂言らしい舞台に一役買っています。しかし余談になりますが改めて段四郎さんと亀治郎親子って似てるなあと思った一幕でもありました。今更ながら亀ちゃんの右京(『決闘!高田馬場』)、段四郎さんにクリソツだったんだと(笑)

富十郎さんの丹左衛門が存在感がありました。富十郎さんはやはり華がある。情がしっかりありつつ、自分の立場をわきまえた大きさのある丹左衛門。さすがだなあ。

福助さんの千鳥も良かったです。ちょっとばかり艶がありすぎるかなと思わなくもないのですがとても可愛らしく、また少しおきゃんな部分に「海女」らしさもあってなかなかの出来。俊寛の代わりに乗船する時の申し訳なさもしっかりみえていました。ただ瀬尾に反撃するシーンではちょっと強すぎかな、と思わなくも。

丹波少将成経の東蔵さん、若々しい優しげな成経でやはりとてもよかったです。平判官康頼の歌昇さん、思いやりのあるしっかりした康頼で過不足なく。


『勧進帳』
いくつかの批評で緊張感のない「勧進帳」と書かれていたので期待半分、不安半分だったのですが予想外にかなり素晴らしい出来で大満足。

梅玉さんの品のいい押さえた雰囲気の富樫(拝見するの今回が2度目)が幸四郎さんの一途さのある弁慶には合わないかなとも思ってたのですがまずその予想が完全に裏切られました。とにかく梅玉さん富樫が熱かった!うそお、なにこれなに?こんな熱い鋭い富樫を梅玉さんがっーーーー!こんな梅玉さん初めてですよ。気迫があって鋭く弁慶に問いただしていく姿が素晴らしかった。またそのなかでとても情の熱さが感じられて。いやあこれは本当に予想外。

なので、幸四郎さん弁慶の義経を逃すためだけの一途さが際立って、問答のとこがすごい緊張感。幸四郎さん弁慶で問答のとこが良いと思ったのは初めてですよっ。テンポがいつも以上に速く、問答が激しかった。今月の幸四郎さんの弁慶はハラの深い大きい弁慶だったと思います。主君義経への熱い想いがエネルギーとして立ち上ってきた感じ。また能がかりの台詞回しの間合いがとてもいい。とてもわかりやすい台詞回し。聞き取りにくいという声も聞くのですが私は聞き易いと思うのです。今回、たぶんノッていたのでしょうね、延世の舞もいつも以上に良かった。かなり迫力がありました。舞の最中に義経を「さあ、行ってください」と逃がす合図はわかりやすいけど、大げさすぎない目配りでこのシーンは幸四郎さん弁慶のがやっぱり好きだなあ。また、引っ込みの前、礼のところの目線がかなり上で空に向かっているのです。神に感謝しているのがよくわかって、ここも良かった。

それとなんといっても、芝翫さん!義経の位取りの高さ、哀しみが出た瞬間からわかる。舞台に重みを持たせたのは芝翫さんですねえ。人物像がとても深いのです。御手の部分の姿も美しかった~。

『喜撰』
とても楽しくてウキウキしながら拝見。まず勘三郎さんが、やっぱ踊りが一段と良くなっている。艶ぽくて洒脱で愛嬌があって、ひとつひとつの動きから目が離せません。一時期、愛嬌の部分がくどく感じられた時期があったのですが今回は艶ぽさのなかにふわっと品を感じさせてとても素敵でした。

そして!玉三郎さんが~~~、無条件で素敵でした。ちょっと婀娜な雰囲気がピッタリ。洒落た雰囲気のなかに色気を感じさせて。勘三郎さんとの息も合っていて楽しそうな雰囲気も良かった。はあ、いいもん見せていただきました。

所化さんたちがかなり豪華でした。お正月ならではの配役でしょうか。わいわいと踊るところが楽しくて、最後まで飽きずに観られました。


2 コメント

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ステキでしたね (スキップ)
2007-01-30 00:35:32
雪樹さま
またまた登場、スキップです(笑)。
私も吉右衛門さんの俊寛と福助さんの千鳥がとても印象に残っていますが、雪樹さんのおっしゃる通り、メインディッシュ2皿に前菜とデザートっていう感じで、バランスよく演目の並んだ、初春らしい充実の昼の部でしたね。
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満腹感 (雪樹)
2007-01-30 13:40:46
スキップ様、こちらにも書き込みありがとうございます。今月は歌舞伎座も充実していましたよね。吉右衛門さんの俊寛はとても人間味あふれて感情移入ができる俊寛でしたよねえ。福助さんも情感があって素敵でした。来月の歌舞伎座も期待大です。
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