Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼~Lord of the Lies~』3回目 1等1階席中央上手寄り

2007年01月20日 | 演劇
新橋演舞場『朧の森に棲む鬼~Lord of the Lies~』3回目 1等1階席中央上手寄り

1月20日ソワレ観劇:

前回から2週間空けての再見です。前回8日に観た時にかなり芝居全体が固まったな、という印象だったのですが、やはり舞台は生ものですね、どんどん進化し深化していく。役者さんたちが役を自分のなかに捉え消化してきた、と思いました。舞台空間が完全に『朧の森に棲む鬼』の世界の空気になっていたという感じ。ストーリー展開がわかっていて、しかもそれほど近い席でなかったにも関わらず幕が開いた途端、朧の世界に引きずり込まれました。自分でもビックリするほど芝居にのめり込んで観ていました。3回目なのに全然飽きないのです。新感線の舞台は本筋とは別の部分でチャリ場をいくつか作ってくるので個人的に複数回見るとどうしてもダレ場になってしまったりして飽きる部分が出てきがちだったりしたのですが今回もちゃんとチャリ場や役者の遊びの部分があるにも関わらず飽きない(勿論、このチャリ場があるからこそ新感線たる部分がありますしこの部分が好きな方も多いです)。今回は笑いと本筋とのバランスが良いのかもしれません。またやはり芸達者な役者を揃えてきた、というのも大きいかな。

前回までは頭の片隅でもう少し脚本に緻密さが欲しいなとか、もう少し本筋の部分で徹底的に芝居させてほしいなとか思ったりしながら観てる部分があったのですがそんなのもういいや、というか役者の迫力でその部分が呑み込まれていった。この日、役者さんたちの集中度がかなりあったように思う。役者さんたちの「気」のぶつかり合い。「いのうえ歌舞伎」は役者の動きに独特の型があっていわゆるリアルな芝居ではない。その芝居っ気たっぷりの台詞と動きが独特のケレンとなり役者の魅力がそこに立ち上がってくる。だから「いのうえ歌舞伎」と言われるのも納得するのだが、その代わり時に手順がみえてしまう時がある。だけどこの日その手順が手順じゃなかった。芝居の「嘘」が「本物」として立ち上がっていた。ああ、これだよ、私が観たいのは!私は嘘に飲み込まれたいのだ。嘘を本物にするエネルギーに触れたい、だから芝居を観ているのだと、そう強く実感した。なんてね、芝居という「嘘」を仕掛けるのに「嘘のたくらみ」を見せる今回の芝居にすっかり乗ってしまっている私。決して「嘘」が上手いストーリー展開とは思わないんだけどでもやっぱり魅力的だ。

ライの嘘に振り回された人々はその「嘘」に本物を見たがったからなんだろうな、なんても思った。彼らはライの嘘に惹かれていた。「悪」がなぜ魅力的になりうるのだろう。それは嘘であろうと「夢」を見させる力があるから、なのだとそう思う。

ライ@市川染五郎、ますます悪くなってましたね~。嘘の狂気にどんどん染まっていく。目がどんどんイッちゃってくるんですよね。ほんとに光を失っていくかのよう。その狂いぷりに染ちゃんの精神状態を心配してしまうほど。ラストの生への執着ぶりは哀れで切なくなります。でもその妄執にかられた姿こそが人間らしい姿でもあり。今回、私はラスト、朧の鬼の姿になったライが現れてほしいと思ってしまいました。朧を呑み込んで、鬼になったライがまた人をたぶらかすというラストもいいなあ、なんてね。

それにしても色気も増してきて後半のライは「妖艶」。嘘で出世していっただけというより色仕掛けで、でもアリでしょう、と(笑)。魅力的だからこそ、皆が惹かれていく。その説得力が増していました。あー、多少贔屓目入ってますけど…騙されてもいいかもと思わせる色気があると思うなあああ。

そういえばちゃらちゃらした小悪党の部分で少し声のトーンを変えてきていました。もっと高めの声を出して軽さを出していたと思うんですがその軽さを少し押さえてました。このほうが最初から悪巧みしそうな雰囲気が出て良い感じです。前ほど声のトーンに頼ることなく、それでも狂気に染まっていくうちにどんどんどこか狂気を含んだ真っ当さがないドスのきいた声になっていくのですが、この声も非常に色ぽくて好き。

前半の刀に振り回される殺陣が本当に刀に振り回されてるようにしかみえない。あれ難しそうだな。後半で腕が上がってからの立ち回りの華麗さは相変わらず。敵味方関係なく切っていくシーンは異常に早くなってました。鬼だ…と思いました。

キンタ@阿部サダヲ、相変わらずキレがいいです。よくぞまああれだけ動けること。芯がぶれないのでどんなに動いても体にキレがある。この人も舞台の人なんだなあとつくづく思う。余裕が出てきたのか遊べるとこは遊んでくてました。前半のライ@染ちゃん、キンタといるとき本当に楽しそうなのよね。芝居としてライとキンタの距離感がすごく近いっていうのもあるのだけどサダヲさんのなごみオーラがなおさらそう見せるんじゃないかな。だから後半のライの非情さも活きてくるわけで。後半、アニキを憎みきれない哀しさが前回以上にダイレクトに伝わってきました。台詞廻しが本当にストレートで、だから感情もストレートに伝わってくる。

マダレ@古田新太、かなりメリハリというか緩急をつけてきました。笑わせるとこは思いっきり。これぞ新感線の舞台といったノリの部分を引っ張っているのはやはり古田さんですねえ。やっぱりただのマジメ路線にさせなかったですね(笑)でもこれ以上遊びはいれないでね、と思わなくも。今がギリギリのバランスかと。でも、まじめなシーンではしっかりと大きさを見せ付ける。その切り替えが本当に上手い。ライに不信感をあらわすところから後半、一気に存在感をみせていく。

ツナ@秋山菜津子、強さと凛々しさのほうがわりと強く出ていた部分に女らしい柔らかさも含んできた。ライに惹かれながらもぎりぎりのところで突っ張っている、そういうツナの気持ちの揺れが出てきたことでライへの愛憎が鮮明になってきた。私はこちらの解釈のほうが好き。ライとツナのやりとりが非常に色ぽくなった。

シキブ@高田聖子、「だーいっきらい」のトーンを少し変えてきたかな?本気の本気って感じじゃなかったような?前のほうが女の業を感じさせて好きなんだけどな。後半部分はシキブの哀れさがますます鮮明に。ライに対してどうしようもなく盲目的になってしまっている姿、裏切られたことが信じられないその絶望のまなざし。最終的に敵愾心を抱いていたツナにすがるしかなかったシキブ。その悲痛さが伝わってきた。