Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『三月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』 A席前方センター

2010年03月06日 | 歌舞伎
日生劇場『三月花形歌舞伎 染模様恩愛御書』 A席前方センター

2006年10月に大阪松竹座で初演された復活狂言の久しぶりの再演です。初演時、大阪まで観にいって妙にハマってしまったお芝居でした。人気があったためすぐに東京で再演かという噂もありましたがなかなか実現されず。3年半ぶりの再演を聞いた時には今更なぜ?という気持ちも。初演時の勢いでそのまま一気にということでもなく、松竹座と日生では小屋の雰囲気も違いすぎますし正直役者さんたちのモチベーションもどうなのか?と個人的には危ぶんでおりました。しかし、ポスターには力が入ってますし、配役もほぼ初演と同じということで期待も生まれました。心配半分、期待半分で観劇に臨んだ初日。

結論から申しますと、とっても楽しかったです!とってもワクワクしました。チケット、追加しようかと思っているくらいです。やっぱりこの芝居好きかも。まだ初日感たっぷりなのとストーリーをシンプルした部分で余白というか余韻をまだ作り上げきれてない部分で若干物足りなさはありましたが、こなれてくればメリハリがついてくるかなと期待。どんどん進化していく芝居だと思いますし。

基本、物語立ては初演と同じですがかなり脚本に手を入れてます。本筋にあまり関係ない部分をばっさり切り、ツッコミどころ満載でゆるゆるだった部分をかなり手直しして、物語の流れを綺麗にした感じです。私は全体の荒さやゆるゆるな部分含めて、好きだったのでちょっと残念な気もしますが、見やすさという部分で受け入れられやすい仕上がりかと思います。本筋で一気に芝居が進むので観ていてダレないし、後半に向けて一気呵成に盛り上がっていくので観客としては入り込みやすい。

個人的には手直ししてほしい部分がいくつか改善されていて、特に特にあざみちゃんが今回ある意味救われたのは嬉しかったし、きくちゃんの立場がどちらにせよ可哀相ではあるけど、可哀相の方向性が多少変化していたので前回よりは納得。それでもやはりあまりに薄幸だよなあ…初演でも感じたけど友右衛門には妹に対する筋をもう少し通して欲しかった。基本、女子キャラ好きなもので、ついね。

横山図書の性格付けを今回は性根の悪い悪人として描いてきて仇討ちものの部分でわかりやすく歌舞伎らしい善悪ものしたのはすっきりして良かったと思う。初演ではつい同情したくなるキャラだったので、仇討ちのとこなんだかスッキリしなかったんですよねえ。ただし反対に物語としての膨らみはなくなった部分も。この改変は前回観た人で猿弥図書が気に入った人にはガッカリかもしれない。物語の膨らみという部分では、「浅草観世音仁王門の場」の数馬の母がカットされていたけど、ここに関してはカットしてほしくなかった。ここがあることで数馬の仇討ちに賭ける思いがよく見えるのだし、友右衛門と数馬の恋愛がなかなか進んでない焦らしがあって、ラブコメものとしても面白かったんだけどな~。こういう瑣末さところがあることで物語は膨らむからね。

あと、火事場での「三つ合わせて肝腎腸ーっ!」は個人的にわりと有りだったので残して欲しかったり。でも当時、このくだりは賛否が激しくてしかも「否」のほうが多かったことを考えたら仕方ないかなあ。友右衛門の命をかけた忠義にじーんとしている人が茶化されたと感じてしまう可能性もあるし。けど、楽しかったんだけどなあ…そういう部分では私はこの芝居に関しては「ツッコミを入れて茶々を入れる」方向で楽しんでいる部分もあるので、真面目に観てる人には怒られちゃうかも。

演出部分では小屋が違うので大道具の動かし方と火事場の部分がかなり変更になっていました。木を組んだだけのシンプルなセットは変わらず、松竹座では盆廻しで動かしていたのを、盆が無い日生ではスライドで。このスライドは場面転換テンポがよくなって効果的。火事場はより大掛かりなセット。かなりカタルシスのある演出になっていました。染五郎さん、お怪我のないようにくれぐれもお気をつけて。火の粉に見立てた赤や金銀のセロファンを撒くのは変わらず、キラキラしてとても綺麗です。義太夫ならぬ講談での語りも勢いがあって相変わらず良いです。初演と同じ、旭南左衛門さん。

演出変更無しの部分で、前回どーしても止めて欲しかったシルエットのラブシーンはそのまま。ほんとにあそこだけは止めて欲しいんだけど…。かえって色ぽく見えないんだよねえ。笑っちゃう。禁断の、と謳うからには笑いに逃げなくても~。あ、ここ笑いどころですよね?違ってたらすみません、でも笑ってしまいます。真面目いえば、ここはあえて見せないほうがエロを感じさせたりすると思う。もしくは、思い切って、生で褌姿を見せてみよ、と言いたいです(笑)。あ、さすがに無理?

音楽はほぼ黒御簾内での生演奏しておりました。ただし、オープニングとエンディングは録音。あれ?松竹座では生演奏でしたよね?やはり小屋の音響の違いとかあるのかな?で、テーマソングがあるんですが、これがあまりに微妙すぎて(--;)聞いてて恥ずかしくなるんですけど…このテーマ曲は手直ししてほしかったかも~。まったりしすぎません?

大川友右衛門@染五郎さん、初演時は一本気で真っ直ぐだけどどこか線が細く若造なヘタレ感がありましたけど、今回は骨太さがプラス。一本気で素直な男性というだけでなく頼りがいという部分が出てきていたので、忠義の部分がクッキリと見えました。それでも、恋に盲目な部分での可愛らしさはそのまま。染五郎さんらしい可愛らしい男性になっていました。それと以前に比べ、友右衛門という人物を演じるうえで歌舞伎味が濃くなっていました。台詞にしろ風情にしを腰の座りがいいというか、全体的に歌舞伎の人物像だなという感じ。それにしても二幕目以降の友右衛門の身体を張ったキレのよさは素晴らしいですね。凛々しくてとってもかっこよかったです。花道上での腰の低い見得はほんと素晴らしかった。階段落ちは観てるほうが怖かった。

印南数馬@愛之助さん、前回、この役を愛之助さん?と心配していましたが心配をよそに、ふっくらと少年ぽい可愛らしい数馬を演じてくださいました。今回は若干トウがたってしまったかなと思わなくもなく(ファンの人すいません)…少年という感じはあまり感じず。どことなくふわふわした世間知らずゆえの小悪魔ぽさとか一途さは少し無くなっていたかなあ。しかし、そこは身体の作り、台詞回し、表情でうまくカヴァーされていて、友右衛門への思慕は今回のほうが強くみえ違った部分での可愛らしさはありました。思い切ってお小姓姿じゃなくして年齢設定を上にしても良かったかもとか。こういう柔らかい役は久しぶりでしょうから、こなれてくればまたふんわりした部分も出てくるかな。期待してます。後半の仇討ちの部分は前回よりしっかりしてて良かったです。ちゃんと修行してきたんだな、という部分もみえたし、あざみちゃんをしっかり庇えてたし。

あざみ@春猿さん、相変わらず可愛い、綺麗~~。私はあざみちゃんラブなのです。単純で嫉妬に身を焦がしロクでもないことをしでかしちゃう馬鹿な女の子なんですけど、そこが可愛い。身近にいてほしくないけど、でもそれだけ好きな相手のことしか見えてない純粋さがあるわけで、その部分での恋愛の裏の部分を真っ直ぐみせてくれて私は大好き。しかも、春猿さんが可愛く切なくはっちゃけて演じてくださっているから凄く魅力的。ほんとに可哀相な女の子だと思う。でも今回、最後あざみちゃんなりの落とし前をきちんと付けてもらえて良かったなと思う。前回のは、どう考えてもあざみちゃん、女として辛すぎたので。まだ初日ははっちゃけきれない感じでしたが、もっと前に押し出して演じてください。いけいけ、あざみちゃん!

いよ/きく@芝のぶさん、美人で薄幸な娘を二役。似た役柄ながらしっかり演じわけをされているのがすごいです。前回より押し出しがよくなって、ある意味、悲劇のヒロイン的立場なんだなという部分が今回しっかりみえてました。きくちゃんの健気さに涙。救われてほしい、と心から思います。

横山図書@猿弥さん、前回、善悪は曖昧な人物像を演じていらっしゃいましたが今回は気持ちがいいほどの悪人。それだけに押し出しよくしっかり悪人として演じてきてくださいました。こういう時はしっかり敵役として存在してほしいのでそこら辺きっちり弁えていらっしゃる。藩の師範になれるだけの剣豪というのも説得力の動き。お上手な役者さんです。

細川越中守@門之助さん、前回は段治郎さんが演じていらして、かなりインパクトのある大らかで楽しい素敵な殿様でした。初演当時、かなり人気があったと思います。私も大好きでした。その役を柄の違う門之助さんが演じるのですから大変だと思います。しかし、門之助さんは品格のある真面目なお殿様としてしっかり演じてらして、これはこれでいい感じでした。まだ肩に力入りすぎな感じでしたが、こなれてくるともっと大きさもでるでしょうし、門之助さんならではの細川の殿を演じてほしいです。

細川奥方照葉@上村吉弥さん、相変わらずお美しい奥方さま。やはりどことなく年上女房的雰囲気があります。控えめながら意外と主導権握ってる風(笑)

家老@錦吾さん、チラシの配役に載っていらっしゃらなかったのでご出演されていてビックリでした。さすが錦吾さん、目立たない役ながらしっかり締めます。錦吾さんが入られたことでこの芝居が歌舞伎の舞台だとという雰囲気をなおさら感じさせてくれたような気がします。

<2006年10月初演時の感想:完全ネタばれです>
★感想 その一
★感想 その二
★感想 その三
★感想 その四