Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等前方花道寄り

2006年06月24日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等前方花道寄り

『君が代松竹梅』
短い舞踊ですけど非日常な華やかな気分にさせてくれるという意味で一演目としては良かったかもしれません。三人のバランスがよく、まとまりのある踊りでした。竹の姫だからでしょうか孝太郎さんがキリッとした表情。扇の扱いがきれいです。翫雀さんは近くでみると手さばきがちょっと雑な部分もありましたが体の使い方が柔らかなので上手くみえます。愛之助さんは貴公子然として綺麗。踊りのほうは丁寧だとは思うのですがどことなく印象が薄いです。

『双蝶々曲輪日記』「角力場」
やっぱり今月の染五郎さんはかなり可愛い。放駒長吉がとても好き。無邪気な少年ぽさがあるのでほんと可愛い。また真っ直ぐな気性ゆえのストレートな怒りがよく伝わってきた。相撲取りらしい雰囲気もきちんと出てたし声もよく出てた。そして何よりもキメの姿が美しい。与五郎のほうはどうみても濡髪にらぶ。つっころぶ姿がよくお似合いで(笑)にしてもその心の中に吾妻はいるのかい?とツッコミたくなりますな。どうも吾妻の存在が少々薄く…。濡髪と一緒にいる与五郎が色っぽすぎるせいかしら?

高麗蔵さんの吾妻がチャキチャキした江戸芸者ぽく見えてしまうせいもあるかも。もっとふわふわした色気が欲しいところです。

幸四郎さんの濡髪は錦絵のお相撲さんのようだ。より大きさがあったように見えました。台詞廻しも低くゆったりめにしていました。休憩時間に舞台写真を見ている時、関西の方らしき二人組が幸四郎さんの上方言葉は完璧と感心してました。すごいなあ。染ちゃんのほうの上方言葉はまだ堅いとのこと。

『昇龍哀別瀬戸内 藤戸』
吉右衛門さん、前半の老母のほうが私は良いと思う。子を亡くした母の無念さがよく伝わってくる。老母の引っ込みで涙を流していたのが見えました。後ジテの漁夫の霊は近くで観るとほんとにでっかい(笑)花道の引っ込みは迫力がありました。でも成仏したようには見えないかなあ…。

梅玉さんの盛綱はツボ。任務に生真面目な武将役が似合いすぎです。今回、寺へ向かう引っ込みの部分で老母への哀れみの感情を抑えてみるとことろがちょっと富樫ぽいなと思いました。

種太郎くんの動きのキレのよさに感心。熱心に吉右衛門さんをガン見してました。

松江さんの声のよさに気がつく。お父さんの東蔵さんに似てきたような気がする。

『江戸絵両国八景 荒川の佐吉』
初日近くに見た時よりは転換はスムーズでしたがそれでもやっぱり場が多すぎるし転換の間がダレる。もったいないですね。もう少しどうにかならないかなあ。

仁左衛門さんの佐吉が気持ちが入り込んでの熱演。最初の場でより若々しくなっていたような感じ。いかにも三下ぽい軽さが出ていました。少しづつ男ぶりが上がっていく姿を幕ごとにさりげなくみせていく。卯之吉に出会ってからは、いかにも子供好きな純粋な男としては一貫している。それにしても卯之吉を育てなきゃいけないのに任侠の世界から足を洗おうとは思わないのよね。結構単純で思い込みが激しいかもとか。男の義の世界に憧れて自分の信じる義の世界を追い求めていたりしてたのだろうか。じゃなきゃ、辰五郎の家の転がり込んで時点で堅気の世界に戻りそうなもんだ。辰五郎の優しさにちょっと甘えてる。政五郎親分に心酔するのもそのせいだな。そういう意味じゃ自分の分をわきまえた男ではある。今回の仁左衛門さんは情の部分が強くて、任侠の世界で泥をかぶって生きていく雰囲気があんましなかったかも。その代わり、卯之吉への愛情の本物さはよく伝わってきた。

染五郎さんの辰五郎もより気持ちに沿った芝居だった。仁左衛門さんがかなり若々しい佐吉を演じてるというのもあるけど、そこに染ちゃんがぴったり兄弟分として傍らにいてしっくりくる存在感があった。いかにも江戸っ子の人のよい堅気の大工。最初から最後まで辰五郎は変わらない。「辰五郎の家の場」では、息の合いようがやっぱ夫婦のようだった(笑)らぶらぶ?それにしても佐吉も純粋な男だとは思うけど大人のなかでは辰が一番純粋で根っからの人の良さがある。だからやっぱ私にはこの物語では泣けない。置いていかれる辰と卯之吉が可哀想だ。

政五郎の菊五郎さんの存在感はやはり見事。説得力があるのよねえ。素敵だわ~。

全体的に役者のバランスはとても良かったと思います。それぞれ魅力的。