Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 夜の部』 3B席左袖席

2010年10月09日 | 歌舞伎
新橋演舞場『錦秋十月大歌舞伎 夜の部』 3B席左袖席

『近江源氏先陣館』「盛綱陣屋」
とにかく役者が適材適所であること、役者それぞれの芸が充実していること、子役にも恵まれ、とにかく見応えがある。全体の物語が鮮明。松嶋屋さんらしい家族の情愛の見せ方が印象的。

盛綱@仁左衛門さん、芝居を非常に細かく組み立てていきます。場ごとの心情を巧みに演じてその積み重ねで人物に太い輪郭を作っていく演じ方。浄瑠璃に沿りつつ、自分の色を重ねていく。いやあ、ほんと観ていて惚れ惚れします。また、仁左衛門さんが演じると、母微妙の前では盛綱の武将の顔のなかに子の顔がのぞく。そこはかとなく甘い雰囲気が出るのですね。前半の厳しい盛綱像のなかにこういう部分を見せるので後半の情味に納得がいく。首実検の部分の表情、仕草の細かさには感嘆。盛綱の心情が手に取るようにわかる。仁左衛門さんの細やかな芸が物語をわかりやすく提示するようになっている。仁左衛門さんの芸が自身の芸として昇華してきたのだろうと思う。

和田兵衛@團十郎さん、これまた素晴らしい。あの存在感とどこか人をくったような造詣がとても良かった。

時政@我當さんの不気味な存在感も良かった。ここまでの押し出しがあるとは。また、やはりさりげなく芸が細やか。目線の鋭さ、不気味な笑い、得体の知れなさがよく出ていた。

微妙@秀太郎さん、芯の部分での手強さをみせる。そこに情の部分での弱さをかぶせとても納得のいく微妙だった。台詞の使いかたが上手い。

篝火@魁春さん、品があり武将の妻と母の顔のバランスが非常によくてさすが。

早瀬@孝太郎さん、凛とした存在感で大健闘。個人的にはもう少し篝火へ女としての同情の部分をそこはかなとなく効かせてくれると私好み。

信楽太郎@三津五郎さん、さすがの一言。メリハリが効いて鮮やか。もう素晴らしいったらないです。

他、脇の脇までしっかり揃って、見ごたえのある一幕でした。


『神楽諷雲井曲鞠 どんつく』
皆がとっても楽しそうで見ているこちらも楽しい。

三津五郎さん、相変わらず端正に踊って巧さを見せます。どうせならもっとはじけていただいてもいいかな。

團十郎さん、太神楽をしっかりこなしてました~。大活躍ですね。

福助さんの芸者姿が美しかった。
  

『艶容女舞衣』「酒屋」
歌舞伎では初めてみましたけど、もうひとつ面白味が…。全体的に納得いかない。文楽ではとっても面白かったんだけど。文雀さんのお園、素敵だったんだけどなあ。お園って人形だからこそ成り立つ女な気がする。それと義太夫の語りの力技で納得させてしまう理不尽さが生身の人間が演じると表に出てきてしまうというか…。

丸本物を観るという部分で、我當さんと竹三郎さんの会話の部分がさすがに義太夫にまるまる乗ってることもありそこは面白かったとは思うんですが。

お園/半七@福助さん、非常に丁寧に演じているし、くどきの部分動きは非常に美しい。しかし、お園を演じるには「女」が生すぎるような気がします。お園はある意味、「聖女」だと思うので、なにかを越えてないと。これは福助さんが悪いわけではなく歌舞伎で演じるべきキャラクターではないんじゃないか…と思います。半七のほうは二役する意味がわからず。なぜ?他に役者がいなかったわけじゃないのになあ。(*どうやら、歌舞伎ではお園役者が半七を演じるのが通例のようです。う~ん、でもあまり早替えを楽しむような演目ではないと思うし、あえてやらなくてもと思います)

宗岸@我當さん、頑固だけどとっても優しいお園の父でした。我當さん、無骨な優しい人物を演じるのがはまる役者さんですよね。私、我當さんのこういうお役大好きです。

半兵衛@竹三郎さん、立役を拝見するのは久しぶりかも。たっぷり骨太に演じてきます。

半兵衛女房@吉弥さん、老け役は珍しいですよね?なんだかもったいないかも。

三勝@孝太郎さん、非常に風情がありとても良かったです。