・ ヒッチのハリウッド2作目は、アイデア満載のパニック・サスペンス。
第二次大戦間近の欧州で国際的事件を取材した米個人記者を描いたパニック・サスペンス。大戦勃発の一年後公開され反ナチス・プロパガンダ映画ながら才気溢れる41歳のアルフレッド・ヒッチコックが惜しげもなくその技量を存分に発揮して、のちにこの種の作品のお手本となっている。
ハリウッド進出第1作「レベッカ」でオスカー作品賞を獲得したヒッチだが、本来の才能を遺憾なく発揮したのは本作だった。
フィクションであるというクレジットが冒頭流れるが、その切り口の鮮やかさからストーリーに入った途端テンポ良く進んで行く展開にただただ身を委ねる気分で映像に見入ってしまった。
大戦防止のキイを握るオランダの政治家ヴァン・メアの暗殺事件を皮切りにカーアクション・風車小屋でのサスペンス、聖エドタワーでの墜落シーンそしてハイライトである飛行機墜落のパニックまでカメラアングルの巧みさやユーモア溢れるシークエンスでアイデア満載で観客を楽しませてくれる。
主演ジョン・ジョーンズを演じたのは西部劇でお馴染みのジョエル・マクリー。ヒッチはゲイリー・クーパーをオーダーしたが断られ回ってきた。そのせいかヤンキー記者役としては地味な気がしないでもないが、充分期待に応える演技で彼の代表作となった。この映画を観たクーパーは大いに後悔したという。
相手役平和運動家フィッシャーの娘キャロルにはラレイン・レイが扮している。ジョンとのラブ・ストーリーもあるがあっさりしていて如何にも添え物という風情。のちに女優にコダワリを見せたヒッチも当時はあまりきが向いていなかったようだ。
その分脇を固める達者な俳優陣がこのドラマを盛り上げる。
なかでもイギリス人記者スコットのジョージ・サンダースはそのウィットに富んだ演技で中盤は主役並の扱い。平和運動家フィッシャー役のハーバート・マーシャルとともに英国俳優の底力を感じさせる演技でこのフィクションを魅力的にしている。
他にもオスカー助演男優賞にノミネートされたヴァン・メア役のアルバート・バッサーマン、本業コラムニストを活かしたコメディ・リリーフ役のやる気のない在欧特派員ロバート・ベンチリー、私立探偵で殺し屋のエドマンド・グウェインなど多士済々。
のちの名作に同じようなシーンが沢山観られるという本作。
なかでも階段でヴァン・メアが射殺され群衆が雨傘が俯瞰で映されるなか犯人が逃げるシークエンスやジョーンズがHOTEL EUROPEのネオンELを壊しHOTになるところは名シーンとして印象深い。
日本で公開されたのが76年なので驚きはなくなってしまったが、もしリアルタイムで観たら太平洋戦争は起こらなかったかも!?