・ なぜ、越えなければならなかったのかー
ディートリッヒ・ガルスカのノンフィクション「沈黙する教室」をドイツの気鋭ラース・クラウメ監督が脚本化した事実をもとにした青春ドラマ。
ベルリンの壁ができる5年前の東ドイツ。エリート高校のクラスメイト全員がハンガリー市民蜂起の犠牲者を悼み2分間の黙祷をしたことから、家族まで巻き込んで<社会主義国家への反逆事件>へとことが大きくなってしまう。
何処にでもいる普通の18歳の少年たちが、純粋な気持ちで起こした行動が政治的タブーを犯したことで首謀者は誰かという犯人捜しになり、密告してエリートへの階段を上るのか、仲間を裏切らず大学進学を諦めるのか究極の選択に迫られる・・・。
この時代のドイツはナチスドイツからの崩壊後東西が分裂、ソ連の傀儡政権である東ドイツは理想的社会主義国家として語られていた時代。大学へ進むことでエリート階級への道が約束されていた。
物語は労働者階級出身のテオ(レオナルド・シャイヒャー)、エリート階級出身のクルト(トム・グラメンツ)、養父である神父のもとで育ったエリック(ヨナス・ダスラー)の三人を中心に、その家族の暮らしや過去を交えながらこの時期の東ドイツならではの複雑な背景も浮き彫りにしながら進行していく。
検閲はあったものの東西の行き来は比較的簡単だったベルリンでテオとクルトは祖父の墓参りを理由にコメディ映画「ジャングルの裸女」を観る目的で入った映画館で観たニュースがキッカケだった。
50年以上前筆者の高校時代、18歳以上の成人指定映画を観るかどうか迷ったことや、担任教師が授業中安保問題を話題にして学校の噂になったことを想い出す。
友情・恋・家族・進路と悩み多き高校時代は大人への階段へ歩み出す第一歩。周りの大人たちのアドバイスを鵜呑みにするのではなく自分で考えることの大切さを教えてくれる。
それは一度しかない自分の人生を選択する自由を持つことの大切さでもある。
原作者のガルスカは本作でのクルトで、のちに高校教師となり晩年の06年出版し映画の完成を見届け18年亡くなったという。
今もなお香港で起きている<自由と連帯問題>。普遍的テーマがここにある。
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