晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『ミツバチのささやき』 85点

2011-11-28 12:59:18 | 外国映画 1960~79

ミツバチのささやき

1973年/スペイン

生と死について向き合う幼い少女を詩情豊かに

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

10年に1度の寡作で有名なスペインのビクトル・エリセ監督による長編デビュー作。
内戦が終結してフランコ政権下のカスティーリャ地方にひっそりと暮らす元共和政支持者で知識階級だった養蜂家の父フェルナンド。人生を感じ取れる力を失い返事が来ない相手に手紙を書いている母テレサ、そして9才の姉・イサベルと6才の少女アナの4人家族。巡回映画で観た「フランケンシュタイン」が幼いアナには何故少女を殺すのか理解できない。詩情豊かなトーンはあまりにも静かで美しく圧倒的な映像美はまさにこれぞ映画だとあらためて気づかされる。姉が言ったウソをそのまま信じ、現実と幻想の区別がつかないアナが生と死について向き合った物語は、誰でも幼いころ体験したできごと。派手さはないので日本公開が完成後12年後だったのもある意味でこの映画らしい。
フランコ政権を隠喩していて、内戦下で過ごした両親は何処か暗さを背負い心に傷を負い苦悩の日々を過ごしている。姉はフランコ政権を無意識ながら享受し大人への第一歩を踏み出そうとしている。アナは姉のいうことを総て信じて従っていたが、負傷兵士を「フランケンシュタイン」と信じることで初めて自我が芽生える。独裁政権から抜け出す新しい時代を予期させる象徴として見ることもできる。
そんな穿った観かたをしないでも、絵画のような風景と可愛いアナの黒い大きな瞳を観るだけで、映画の原点をみる想いにさせられる。緻密な演出に応えたルイス・カドラードの映像は素晴らしいが撮影中視力を失ったという。もっとこのコンビで作品を残して欲しかった。
父フェルナンドを演じたフェルナンド・フェルナン・ゴメスは寡黙ながら不遇な時代を耐えながら生きる男を観客に植え付けて存在感を見せている。何より印象的だったのはアナを演じたアナ・トレント。純粋無垢で好奇心溢れる表情は何処までが演技か分からないほど。監督は作品の成否を握っていたこの役を、子供たちが遊び廻っているのを独りでひっそり見守っていたアナを観て起用を決めたというが慧眼である。



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