晴れ、ときどき映画三昧

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「天国の門」(80・米) 70点

2014-06-01 14:56:49 | (米国) 1980~99 

 ・ 時代の再現に執心したM・チミノの渾身作。

                    

 「ディアハンター」(78)でその才能を発揮し、ハリウッドに華々しく名乗りを挙げたマイケル・チミノ。19世紀末ワイオミング州ジョンソン郡で起きた牧場主と東欧・ロシアからの入植者との争いをモチーフにした長編オリジナルを映画化した。

 あまりの長さ(5時間超)に製作会社から大幅カット指令を受け149分短縮版で上映されたが、1週間で興行中止となりUA倒産のキッカケとなった曰くつきの作品。今回観たのは30年を経てディレクター・カット版として再編集された216分。

 最初の感想としては<NYタイムスが酷評するほど悪くないが、人物描写に不満>といったところか。本国で不評だったのは、おもに3つの理由からだろう。

 第一に、アングロサクソン系の牧場主たちの組織(WSP)が西部劇的悪役で、入植者たちを粛清するというストーリーに不満があった。

 第二に、戦闘は直前回避されていて、終盤最大の見せ場である戦闘シーンが史実とは違うストーリー展開であること。

 第三に、短縮版は登場人物が唐突に登場してストーリーが分かりにくく、壮大な西部劇を期待していた観客の期待を裏切ったこと。

 時代を経て、なおかつ再編集された本編は、筆者のような外国人から見ると史実ではないことの是非を別にすると、作品として充分訴えてくる内容である。

 主人公はハーバード大出のエリートでありながら、好んで西部の保安官となったジェームズ・エイブリル(クリストファー・ウォーケン)。同窓生の牧場主ビリー・アーヴァイン(ジョン・ハート)と20年振りに再会する。牧場主たちは牛泥棒を粛清するためガンマンを雇い、犯罪者リストをもとに入植者たちを処刑することを決める。

 争いに巻き込まれた保安官のジェームズ。雇われガンマン・ネイト(クリストファー・ウォーケン)と娼婦の館・女主人エラ(イザベル・ユペール)の恋にジェームズが絡んで三角関係の行方が気になる。

 時代の再現性に最大のエネルギーを割いた?圧巻の映像美。何しろスタジオに機関車を持ちこんだり、壮大な西部の風景描写、壮絶な戦闘シーン、群衆のリアルな衣装・やつれた風貌、華やかなハーバード大卒業パーティ・舞踏会シーンなどなど。数え上げたらきりがないほどの映像美は、M・チミノの限りない執念とヴィルモス・ジグモンドの撮影技法の賜物。

 トキにはストーリーを忘れるほどの凝りようで、バランスの悪さが許せない観客が出るのも良く分かる。なかでも、主人公・ジェームズの描き方が中途半端。同時代を描いた「シェーン」(53)のようにとは言わないが、単なる遊び心でエラを弄んでいる平凡な男にしか感じられない。

 秀逸だったのはネイトを演じたC・ウォーケン。のちのJ・デップは彼のモノマネでは?と連想させる風貌で、孤独で危なげな男の魅力を振りまいていた。いっそ彼を主役にしたら?と思えるほどの人物像だった。

 ヒロインI・ユペールは米国の有名女優候補を蹴って起用したチミノの期待に応え、全裸も厭わぬ体当たりの演技。「ピアニスト」(01)で大女優となったが、27歳の若かりし姿がみずみずしい。

 日本人にとってそれ程知られていない「ジョンソン郡戦争」を題材に、史実を曲げてまでひとりの男の半生を描いたこの長編は、虐げられた入植者の悲劇性描写とのバランスに苦慮し、消化不良の感は否めなかった。

 それでも映画バブル期の贅沢な映像美は、映画史に残る1作であることは間違いない。

 
 
 


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