・ 東西冷戦時代を背景にした友情のものがたりと圧巻のダンスシーン
ジェームズ・ゴールドマンの原案を「愛と青春の旅立ち」(82)のテイラー・ハックフォード監督が映画化した<東西冷戦時代、バレエとタップダンスの競演を柱にした男ふたりの友情ものがたり>。
主演はミーシャことミハエル・バリシニコフで共演はグレゴリー・ハインズ、ポーランド人監督でもあるイエジー・スコリモフスキ。エンディングに流れたライオネル・リッチーの「セイユー・セイミー」がオスカー歌曲賞を受賞。
芸術の自由を求めアメリカへ亡命したソ連のバレエダンサー・ニコライ(M・バリシニコフ)。ロンドン公演から東京へ向かう飛行機がエンジントラブルでシベリアへ不時着。命は助かったがKGBチャイコ大佐(J・スコリモフスキ)に身柄を拘束されてしまう。大佐は黒人タップダンサー・レイモンド(G・ハインズ)の家に同居させ監視役につける。レイモンドはヴェトナム戦争に従軍し自国の政策や人種差別に嫌気がさしソ連へ亡命、ロシア人の妻ダーリャ(イザベラ・ロッセリーニ=I・バーグマンの娘)と暮らしていた。
最初は反発していた二人だが、お互いの踊りに対する真摯な気持ちにダンダン友情が芽生えてくる。
冒頭、ジャンコクトーの戯曲「若者と死」でミーシャが踊るシーンで始まる本作は随所にダンス・シーンが入る。なかでもミーシャの11回連続ピルエットや二人のバレエとタップの共演などストーリーに欠かせないシーンはバレエやダンスに詳しくない筆者でも圧巻で見どころのひとつ。
飛行機の不時着から白夜の脱出までのサスペンス劇に旧ソ連の芸術に対する異常さが感じられるのは、自由の国アメリカから観たソ連に対する批判も込められる。
現にこの時代はロシアからの亡命が頻発し、主演のミーシャもその一人。ソ連にとって国家の英雄である芸術家やスポーツ選手はプロパガンダの道具となった。ロシアとなった今でもその傾向は続いていて、北京オリンピックでも騒動を起こしている。
またキーロフ、ボリショイなどバレエの世界公演は外貨獲得の手段でもあったから、亡命のリスクも並存するキライがあった。
ニコライの恋人だった元プリマドンナのカリーナ(ヘレン・ミレン=のちにハックフォード夫人)はソ連に残りレニングラード(現サンプトペテルブルグ)のキーロフ劇場の支配人として再会を果たしている。こんな美しい恋人とも別れ芸術の自由を求めたニコライ。ソ連に亡命して最初は大歓迎されたがロシア人妻と寂しい暮らしを余儀なくされているレイモンドとは対照的だ。
ベリシニコフは「愛と喝采の日々」(77)に続く映画出演だが本作はバリバリの主演で自身と境遇の似通った主人公を熱演している。
対するG・ハインズは西側から共産主義国へ亡命した悲哀を滲ませ、人種差別を承知で母国へ帰還しようとする。
ラスト・シーンはハラハラ……ドキドキ感とご都合主義のハリウッドらしさが入り交じるが後味は悪くない。
たとえフィクションとはいえ、本作はウクライナ侵略で世界中から非難を浴びているプーチン政権にとって耳の痛い映画であろう。
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