・ 「マイ・フェア・レディ」を想わせるW・アレンのロマンティック・コメディ。
御年80歳に近いウディ・アレン。毎年エネルギッシュに作品を作り続けていて、C・イーストウッドと並ぶ長いキャリアを誇る監督だ。
20年代南仏コートダジュールを舞台にした、英国人マジシャンと米国人霊媒師とのロマンティック・コメディ。
中国人奇術師ウェイ・リン・スーという名で象を消したり、人体切断をしてベルリンの客を驚かせているスタンリー(コリン・ファース)。旧友マジシャンのハワード(サイモン・マクバーニー)の頼みで霊媒師のトリックを見破ることを請け負って南仏コートダジュールへ向かう。
合理主義者で無神論者でもあるスタンリーが出会ったのは、若き霊媒師ソフィ(エマ・ストーン)。出会った途端東洋の匂いがすると言ったり、富豪未亡人の夫の霊を呼びだしたり、スタンリーの叔母・ヴァネッサ(アイリーン・アトキンス)の若き日の悲恋を言い当てたり、トリックを見破るスキが見つからない。
何とか正体を見抜こうとするスタンリー。アールデコの衣装と帽子が似合う、キュートで霊能力者とは思えないソフィ。 おまけに富豪の御曹司はソフィに首ったけで、ウクレレ片手に恋の歌を歌ってプロポーズ。
婚約者がいる合理的な主人公が、初めて不合理な恋に出会う戸惑い。それをお見通しの叔母が粋な計らいで気付かせるところがW・アレンの真骨頂。
いつもの主人公が速射砲のような長台詞は少しテンポが遅いが、自分の分身のような皮肉屋で悲観論者は相変わらず。おまけにいつも旬な女優が登場して、恋模様を繰り広げるパターンも。今回はC・ファースとE・ストーンという新鮮なコンビが、不可能な理屈を超えたラブ・ストーリーに不自然さを感じさせない。
作品はW・アレンのオリジナルだが、実在のモデルがいたのも驚きだ。マジック・ファンなら知っている20世紀初頭に活躍したハリー・フーディニーで、脱出マジックを得意としていて象や人体切断も彼の発案。サイキック・ハンターとして霊媒師たちに恐れられたが、霊媒師マージェリー・クランドンのトリックはなかなか見抜けず、雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」で事実を認めたことがあるという。
W・アレンは今までも手品をモチーフにした作品は多いが、どこか「マイフェアレディ」(64)のヒギンズ教授と花売り娘イライザに似た展開は彼の手品だったのか?
ほかにも「成金泥棒」(55)、「マンハッタン」(79)を想わせるシーンもあって、映画ファンを懐かしがらせる。
コートダジュールやプロバンスの海と家屋敷・庭園、ニースの天文台、ダンスパーティとクラシック・カーを散りばめたノスタルジックな恋物語は<瞬間移動マジック>で幕を閉じる。
シニカルな笑いとクラシックやジャズの名曲を隠し味に、恋のマジックを堪能した98分だった。
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