・ 20年代パリへタイム・スリップした男のラブ・コメディ。
ウディ・アレンが三度目のオスカー脚本賞を受賞したラブ・コメディはパリが舞台。NY大好きなW・アレンだがこの頃バルセロナ、ロンドンとヨーロッパに移り、デビュー当時29歳のとき8ヶ月滞在したパリへの憧れをそのままに映画化。
主演はオーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、レア・セドゥーなど多彩な女優が共演。
ハリウッドの売れっ子脚本家の主人公ギル(O・ウィルソン)は処女小説を完成させるべくパリ移住を決意。婚約者イネズ(R・マクアダムス)とその両親の観光旅行に便乗し憧れのパリにきていた。
知ったかぶりの大学教授ハリー(マイケル・シーン)夫妻と名所観光をするうち、二人の心は離ればなれに・・・。
オシャレなジャズのBGMでまるで観光映画のようなパリの名所旧跡が映されるオープニングの素晴らしさは「マンハッタン」(79)に匹敵するぐらい、ウディならでは。
おまけにギルがサンテティエンヌ・デュモンヌ教会の12時の鐘とともにプジョーのクラシック・カーが現れ、アナーキーなゴールデン・エイジの20年代にタイム・スリップ。フィッツ・ジェラルド夫妻、コール・ポーター、ジャン・コクトー,ヘミングウェイと出逢い、ピカソ・モジリアーニと暮らしていたアドリアナ(M・コティヤール)に惹かれて行く。
さらに馬車が現れ、アドリアナが憧れる19世紀末のベル・エポック時代へ。ロートレック、ドガ、ゴーギャンがルネサンス時代への憧れを語る。
21世紀のカリフォルニアに暮らすギルの憧れは20年代のパリだが、アドリアナはカンカンで賑わう19世紀末に憧れ、ベル・エポック時代の芸術家はルネサンス時代への憧れを語っている。
いつもの速射砲のような台詞やシニカルな笑いの味は薄く、ウディ好きには物足りない本作は、毛嫌いしていた人や知らない人には受け入れられ彼最大のヒット作となった。
とはいえハリウッド嫌いの主人公はウディ本人の心情を描いていて、高級ホテルで派手な買い物と名所の観光に明け暮れるアメリカの金持ちや、うわべの知識をひけらかし中身のないインテリへの皮肉はしっかり届いている。
パリのサロン女主人ガートルード・スタインにキャシー・ベイツ(クレジットの最初に名前がある)を始め、エキセントリックなダリにエイドリアン・ブロディなどを配し、ヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、ピカソなどそっくりさんを起用、サルコジ元大統領夫人(カーラ・ブルーニ)やフランスのコメディアンガット・エルマリ(探偵)など登場人物で飽きさせないキャスティング力は流石。
女優陣ではR・マクアダムスが割を食い、フランス女優M・コティヤールでパリの雰囲気をたっぷり惹きだし、出番の少ないR・セドゥーが美味しいところをさらっていった。
現在が楽しいことばかりではない現実から逃避して懐古趣味に浸りがちだが、今も悪くないと気づくギル。ゴッホの星月夜ではなかったが、アレクサンドル三世橋で雨がお似合いのカップル誕生でエンディングを迎える。
男性版シンデレラともいうべきギルには、主役なのにクレジット7番目に登場するO・ウィルソンがはまり役で、ソプラノ・サックスが流れるBGMとともにハッピー・エンドが待っていた。
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