・ 男の本音と建て前を鋭く突いた西川監督。
「ゆれる」(06)、「ディア・ドクター」(09)、「夢売るふたり」(12)と3年ごとにオリジナル作を手掛けてきた西川和美。
4年後の最新作は、直木賞候補となった同名の自作を映画化した、冬で始まり冬で終わる1年間のドラマ。
妻が事故死したとき、愛人と情事に耽っていた人気作家・津村啓が、新たな家族との出会いから再生を目指す姿を追う。
津村を演じたのは本木雅弘。本名は衣笠幸夫で国民栄誉賞の野球選手と同じ音声であることを恥じていて、妻(深津絵里)から幸夫クンと呼ばれるのを嫌っている。
妻の最後の言葉が「後片付けお願いね!」<究極の後味が悪い別れ>で始まるドラマはどう展開して行くのか?
人気作家でTVのコメンテーターで出演もする幸夫にとって、表の顔は最愛の妻を突然の事故で失った言いようもない悲しみを堪える津村啓だったが、裏の顔は涙さえ出なかった。
同じ事故で妻を失った陽一はトラック運転手で2人の子持ち。妻同士は親友だが、幸夫とは初対面。陽一は感情を隠すことなどしない純粋さで愛妻の死を忘れられず事ある毎に泣く。
事故がなければ決して会わない両極の二人が他者との交流で、新たな人生へ歩み出せるかが最大の見どころ。
師匠・是枝祐和が得意とする子供が登場するホームドラマに初めてアプローチした西川は、疑似家族の風変わりなホームドラマ。
本作で本木が演じる、どこか憎めないダメ男ぶりは是枝の阿部寛のような存在。愛人(黒木華)とはワイン片手にジャズのウンチクを傾け、レストランでは「パテ・ド・カンパニュー」を注文する気取り屋。シニカルな笑いを散りばめた男の本音と建て前を見事に表現している。
キャスティングがきめ細やかなのは本作でも健在。特に陽一を演じた竹原ピストルと、娘の保育園児・灯(白鳥玉季)の自然な演技が光る。
自然光の柔らかな光を取り入れた山崎裕による16mmフィルム、音楽は殆ど使わず生活音だけのBGMもこだわりを持った映像で、唯一ハイライトで手嶌葵が歌うヘンデルの<オンブラ・マイ・フ>が印象的。
男の心理描写を深く掘り下げた傑作だが、全体にお行儀がよく女性の描写が類型的なのがモッタイナイ。
次回作に期待したい。
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