晴れ、ときどき映画三昧

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「アメリカン・スナイパー」(14・米) 85点

2015-03-01 08:06:45 | (米国) 2010~15

 ・ B・クーパーの熱い想いと、C・イーストウッドの緻密な演出の見事なマッチング。

                    

 全米で大ヒットした今話題の新作を、東京・日本橋で鑑賞。ここは筆者が現役時代42年働いたオフィス跡で想い出の場所でもある。なんでも大画面・IMAX、最新の音響装置・ドルビーアトモス対応とのことで、通常料金に200円プラスしてオスカー音響編集賞受賞を実感した。

 実在の元海軍兵曹長クリス・カイルの回想録をもとにジェイソン・ホールが脚色、今勢いに乗っているブラッドリー・クーパーが主演。「世界でひとつのプレイブック」(12)、「アメリカン・ハッスル」(13)に続いて3年連続オスカー候補作品に出演しているだけでも凄いが、本作での思い入れは並々ならぬものがあり、製作も手掛けた彼の熱意無くして本作は完成しなかったことだろう。

 監督は御大クリント・イーストウッドで、S・スピルバーグが降りて実現した。そのさり気ないが緻密な演出ぶりは、徹底した事前調査から生み出した人間の言動を客観的な目で捉え多面的な側面を炙り出している。

 本国では著名人を巻き込んで、戦争のプロタガンバだ、反戦だ、人間ドラマだと大論争があって、主人公は英雄なのか?の論議も含め、普段映画を観ないヒトも映画館に押し寄せるという一種社会現象となっている。

 ここでは、イラク戦争の是非論には一切触れていない。テキサスで生まれ育ったロディオ・カウボーイが、’98米大使館爆破をTVで観て愛国心に燃え海軍特殊部隊ネイビー・シールズ隊員となり、03~09年に4回イラク遠征し武装勢力160人を射殺したスナイパーの人生を追っている。

 少年のころ、父親から「羊たちを略奪する狼から守るシープドッグ(番犬)になれ」と教えられ、幼い弟をいじめた子供を殴り家族を守った主人公・クリス。得意の射撃を活かしスナイパーとなり、愛する妻・タヤ(シエナ・ミラー)と国を守るため戦場へ。

 戦場では仲間を守るためには阻害する相手を射殺する究極の判断を余儀なくされ、たとえ女や子供であっても射殺する。そこには多少のためらいもあるが、正義を全うすることには何の疑いもない。

 仲間から「レジェンド」と命名され、イラク反政府軍からは「悪魔」と呼ばれ賞金18万ドル賭けられたクリス。銃を構えながら愛妻の妊娠を知り喜ぶという異常な現象に気付かないまま、職務を全うする姿に不自然さを感じる。

 デジタルカメラによる戦場の緊迫感は、不謹慎ながら一瞬西部劇の風景を連想させる。だが砂嵐に包まれ敵味方が判別できない戦場を観客も一緒に体感するようになると、そんな気分も吹っ飛んでしまう。

 イーストウッドの演出には必ず相手側の描写をさり気なく入れるところがあって、原作にはない反政府武装勢力に元五輪選手のスナイパー・ムスタファや、長老・シャイフが仲介を条件に10万ドルを要求するなど、反政府勢力や現地にも仲間や家族・故郷を命懸けで守ろうとしている人々がいることを忘れていない。

 同じ太平洋戦争での硫黄島をテーマに米国側から観た「父親たちの星条旗」と日本から観た「硫黄島からの手紙」を相次いで作ったイーストウッドの軸は本作でもブレていない。 

 最大のテーマは、主人公が戦場へ赴く毎に守るべき家族と心が離れていくところ。退役軍人は栄光の陰に肉体障害者やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩むひとが数多くいる。タフなクリスもタヤから「あなたの心はまだ戦場にある」といわれ、善き夫で善き父親であろうとする想いと裏腹に些細なことで怒り出したり、過敏な反応をしてしまう。

 B・クーパーは伝説の英雄となったクリスではなく普通人クリスの内面の葛藤を表現していてオスカー・ノミネートも納得の演技だった。

 クランクイン後13年2月に事件が起こり、終盤脚本を書き直すハメになる。この事件がキッカケで本作がさらに関心を呼ぶという皮肉な現象となり、製作側には相当なプレッシャーとなったことは間違いない。

 イーストウッドの選択は流石で、この映画の品格を感じさせてくれた。

 筆者は被告が無期懲役の判決が出た日に鑑賞したが、タイムリーというべきか?エンドロールの静謐な沈黙にこの映画の真骨頂を観る想いがする。
 
 
 

 
       


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