晴れ、ときどき映画三昧

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「リンカーン」(12・米) 80点

2013-04-26 18:41:44 | (米国) 2010~15
・英雄の伝記映画にせず、リーダーとしての在り方と人間リンカーンとしての苦悩を描いたスピルバーグ。

  

 ドリス・カーンズ・グッドウィンの原作「リンカン」をスチーヴン・スピルバーグが映画化。<奴隷制度に関する13条憲法改正について議会の可決を取り付ける約1カ月間の政治劇>をドラマチックに描いている。今年のアカデミー賞最多の12部門にノミネートされたが主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)、美術賞の2部門獲得に留まった。

 16代大統領リンカーンが再選を果たした2ヶ月後の1865年1月、4年に及ぶ南北戦争は終戦を迎えようとしていた。戦争終結とともに何十年も続いている奴隷解放の必要性が弱まって、憲法13条改正案が否決されてしまう恐れがあった。前年4月改正案を否決されているリンカーンは、何としても1月中の法案を議会で可決する必要がある。そこで彼は共和党内の急進派と穏健派の対立を説得し、奴隷制を支持する民主党の切り崩しを謀る。
本作を楽しむためには予備知識がいる。それは、
・奴隷制度と南北戦争は一対のものであっても、北軍勝利とともに簡単に実現されるものではないこと、
・当時の共和党はリベラル派で民主党が保守派であること、
・リンカーンが改正しようとする<法の下の平等>と<人種間の平等>は違うこと
である。
<法の下の平等>とは白人が支配する議会で決定できる平等権で現在の人権とは違うものである。それでも南部の綿花栽培を始め農業を産業主体とする南部の民主党にとっては労働基盤を失う一大事なのだ。党内の穏健派ブレア議員の和平交渉を了承しながら急進派スチーヴン議員を説得し<法の下の平等>を党内一致させる。ロビイストを雇って民主党議員の切り崩しを図り、自らも説得に当たるというキワドイこともする。リンカーンはトキには静かに、トキには権限を誇示して議員達を説得に当たる信念の人として描かれる。それは単なる理想主義者ではなく、リーダーとしての在り方を示すことの大切さを痛感させる決断と実行が伴うものだ。
かたや人間リンカーンは家庭人として妻・メアリーの子供への想いを受け止め、長男ロバートの軍隊入隊に悩む父親でもあった。多くの犠牲者を出したリーダーとしての葛藤を背負いながら、迫る南軍との和平交渉をどのタイミングで決着するかの決断を迫られることに。

スピルバーグは、英雄リンカーンの生涯ではなく、<奴隷制度廃止のためには南北戦争終結を引きのばしという究極の選択をしてまで目的を果たした政治家リンカーンの苦悩>を丁寧に切り取って見せている。

リンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイスは完璧な晩年のリンカーンに成りきって、文句なくオスカー獲得も納得の演技。夫人を演じたサリー・フィールドの母親であり大統領夫人であることの辛さと脆さが滲み出た演技も秀逸だった。
脇役ではスティーヴン議員を演じたトミー・リー・ジョーンズが大向こうから掛け声が掛かってもいい美味しい役どころ。

アメリカに黒人大統領が生まれたのは150年近くたってからのこと。今でも人種差別は完全にはなくなっていないが、多大な犠牲を払いながらリンカーンのこの大英断なくして現在はないことも確かである。また、真のリーダーとは?が問われる時代に本作は何らかのヒントになるのかもしれない。

 


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