・ 第二次大戦末期のドイツで起きた実話をもとにしたサスペンス。
「フライト・プラン」(05)、「RED/レッド」(10)のロベルト・シュベンケ監督が、本国ドイツで描いたサスペンス。<脱走兵が見つけた軍服を身につけ大尉に成りすましエスカレート、ついに狂気の世界とへ向かっていく>という嘘のような本当の話をもとにしている。
邦題から思い浮かぶのはチャップリンの「独裁者」だが、本作の主人公はヒトラーではなく20歳そこそこの脱走兵ヘロルト(マックス・フーベッチャー)。
終戦まであと一ヶ月あまりの45年4月。脱走兵狩りを辛うじて逃れ、ドイツ軍パラシュート部隊軍用車の座席にあった軍服を発見。
丈が長い軍服を身に纏い大尉に成りすまし、道中出会った兵士たちを服従させ親衛隊のリーダーとなっていく・・・。
身分がばれそうになると<ヒトラー総統の密命>が殺し文句となり、憲兵隊から逃れ軍規違反収容所に駐在する。
いつしかヘロルトは<馬子にも衣装>から<虎の威を借りる狐>となり、ついに暴走が始まる。
監督はストーリーの順どおり撮影し、主人公の変貌ぶりを丁寧に描写。
序盤でユンカー大尉(アレクサンダー・フェーリング)に怪しまれたときは主人公に感情移入して、正体がばれないかヒヤヒヤしてしまうほど。
主人公を取り巻く様々な兵士の深層心理にも迫って行く。
最初の上等兵フライターク(ミラン・ペシェル)は運命共同体としてヘロルトに服従するが、その呪縛から逃れられず苦悩し狂気の行動を余儀なくされる。
粗暴な兵士キピンスキー(フレデリック・ラウ)らは偽物と見抜きながら打算でついて行く。
たどり着いた軍規違反者収容所は大量のドイツ軍兵士がいた。権力の味を知ってしまったヘロルトは、傲慢な振る舞いをエスカレート。
ついに大量殺戮を主導していく。法規と上司の命令のみに従う所長と一掃することを願う警備隊長による軍人同士の対立は、非国民であるという理由からヘロルトによって簡単に結論づけられてしまう。
<彼らは私たちで、私たちは彼らだ。過去は現在なのだ。>という監督は、エンドロールでヘロルト即決裁判所と描かれた軍用車で現代のドイツへ登場し、人々を尋問していく姿が映し出される。
現代のイジメやDV・パワハラなど加害者への同調は集団心理の恐ろしさを物語っているし、決して後味の良くない本作を通して<自分だったら、という目で見て欲しい>という監督の言葉を噛みしめている。
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