晴れ、ときどき映画三昧

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「理由」(95・日)75点

2020-08-07 17:43:08 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 


 ・ 宮部みゆきのミステリーを忠実に映画化した大林宣彦の豪腕ぶりを楽しむ。


 映画化が不可能といわれた直木賞受賞作品、宮部みゆきのミステリー小説を大林宣彦監督が豪華キャストで映画化。

 東京の下町荒川のタワー・マンションで4人家族の惨殺事件が発生。警察が調べてみると被害者たちはその部屋の住人ではなく、全く別の住人だったことが判明する。
 容疑者の男が簡易宿泊所にいると少女が交番に知らせてドラマが始まる・・・。

 今年4月に逝去した大林宣彦監督。その長いキャリアのなかでも節目となる異色作で、「異人たちの夏」(88)と並ぶ東京下町の風景を描写した筆者のお気に入り作品だ。

 登場人物は107人でノーメイク、出演順にクレジットが出てくる。今では故人となってしまった懐かしい著名人たち(永六輔・立川談志など)が特別出演しているのも話題のひとつ。

 大嵐の夜、マンションから墜落した男を発見した管理人(岸部一徳)が狂言廻しとなり、住民たちの証言がドキュメンタリー取材のようにカメラに向かって語られる。男は2025室から墜落したが、隣の住人2024室(久本雅美)、2026室(小林聡美・風見章子)の証言はコミュニティの希薄さが明確となって捜査は難航を極める。

 殺人事件であるが、警察が華々しい活躍をする犯人捜しのミステリーではないようだ。

 2025に住んでいたはずの小糸一家、容疑者として浮かび上がった石田直彦(勝野洋)とその家族、被害者の砂川とその妻里子・実は秋吉勝子(古手川祐子)、墜落死した八代祐司(加瀬亮)とその恋人・宝井綾子(伊藤歩)とその家族など、記憶を辿ることと再現シーンで複雑な事情を抱えながら事件に関わっていることが明らかになってくる。

 それは家族の基盤である住宅事情を背景にバブルの落とし子的存在の超高級マンションの売買に絡む殺人事件で、それぞれの人間の願望をあぶり出して行く。

 登場人物が非常に多いドラマだが、著名な俳優たちが演じているため人物を混同することもなくドラマの行方を追うことができるのはメリットで、これだけのキャスティングを組めたのは大林監督ならではのことだ。

 小林聡美、宮崎あおい、風吹じゅん、松田(熊谷)美由紀、伊藤歩、高橋かおり、裕木奈江、中江友里など大林作品出身女優が多数出演。重要な役柄の少女役には映画初出演の寺島咲を起用し、アイドル育成の手腕はいまだに健在だ。

 ノスタルジックなファンタジー満載の本作。ホラー好きらしいエンディングを含め、原作を忠実に映像化しながら宮部ワールドとはまるっきり違う大林カラー満載の160分だった。