・ 中国返還に揺れる香港に住む貧しい若者たちの鮮烈な青春ドラマ。
97年の香港、複雑な家庭環境で生きる少年少女たちをスタイリッシュに描いた青春ドラマ。アンディ・ラウ製作総指揮、監督・脚本はフルーツ・チャン。4Kレストア・デジタル・マスター版で蘇った。
たった5人のスタッフによる製作費5万ドルの香港インディーズ。主演のサム・リーはスカウトされ映画初出演だったが鮮烈な印象を残し本作を機にスター街道を歩んでいる。
今年高速鉄道開通で中国本土と繋がる香港は、 1国2制度を前提に21年前中国返還された。当時の人が抱える閉塞感を背景に、社会の底辺に生きる人達の暮らしが投影されている。
筆者が香港に行ったのはこの数年前だったが、若者達は絶えず携帯電話で会話し、低空飛行の飛行機が高層ビルの谷間を飛び交い、車のクラクションが鳴り響き、そのエネルギッシュな街の騒音に驚かされた記憶がある。
蒸し暑く高層ビルが林立するそんな懐かしい街並みで繰り広げられた少年チャウ(サムリー)と16歳の少女ペン(ネイキー・イム)の純愛物語は、過酷な日々の連続でもあった。
飛び降り自殺した女子学生の遺書2通を拾ったロン(ウェンダース・リー)。知的障害のあるロンを弟のように可愛がるチャウは借金取りを手伝う不良少年だが、正義感が強く優しさもある。
そんな二人がベリー・ショートの少女ペンと出逢う。彼女が重い腎臓病で余命僅かと知り、危ない仕事を請け負い金策することを決意する。
フルーツ・チャンは、アンディ・ラウから4万フィートの期限切れフィルムの提供をもとに撮影。若者たちに2か月掛けてリハーサルを重ね自分たちの言葉で演技させている。粗さは観られるがとても臨場感があり、墓地の絶景や急勾配の路面電車など香港ならではのロケがとても効果的だ。
女子学生が残した2通のうち家族に宛てた遺書がペンとチャウの言葉で紡がれるラスト・シーンがとても哀しい幕切れとなる。
エンディングでラジオで流れる毛沢東の若者に向けたメッセージが空しく流れる。勿論中国本土では反体制映画として上映禁止である。