晴れ、ときどき映画三昧

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「炎の城」(60・日) 60点

2018-09-09 14:04:42 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

・ ハムレットを時代劇にした名匠・加藤泰作品に一見の価値あり。




時代劇の雄・東映がマクベスを題材にした黒澤明監督・三船敏郎主演の「蜘蛛の巣城」(57)に対抗して映画化したのは、ハムレットを戦国時代の瀬戸内に舞台を移した時代劇。
<壮烈な失敗作>と述懐した名匠・加藤泰が監督。「ぼく東綺譚」(60)の八住俊雄が脚本化、東映スター大川橋蔵が主演している。

明から帰国した若君・王見正人(大川橋蔵)は、父が叔父の師景(大河内傳次郎)に謀殺され、母時子(高峰三枝子)まで奪われたことを知る。
さらに圧制に苦しむ農民たちを観て、葛藤の末復讐に立ち上がる・・・。

叔父と母の再婚、恋人の父を殺害、正人(ハムレット)を導く父の霊など、原作を踏襲した悲劇を絢爛たる色彩で描いて、黒澤の陰影あるモノクロ映像に対抗。

断崖絶壁での処刑シーン、ダイナミックな殺陣、燃え上がる城など吉田貞次の迫力あるカメラワーク、伊福部昭のテーマ音楽(ゴジラと同じ)がマッチして随所に加藤らしさは出ていた。
ただクローズアップは多用されていたが、得意のロー・アングル映像は観られずファンにとって物足りない。

その後の「瞼の母」(62)、「沓掛時次郎 遊侠一匹」(66)や「緋牡丹博徒シリーズ」のような任侠ものに観られる叙情詩に本領を発揮した監督には本作は肌が合わなかったのでは?

個人的には橋蔵より錦之助のほうが適役だった気がする。橋蔵は「新吾十番勝負」のような美剣士がお似合いで苦悩する若君には見えなかったし、狂い方もオーバーアクションが気になった。

師景の大河内、時子の高峰は流石の存在感で、恋人雪野の三田佳子が初々しい。

加藤が<失敗作だ>と自戒の言葉を残した最大の理由はラストシーンにある。不条理な悲劇を活劇風にしてしまったのは、スター中心である当時の邦画システムによる弊害だ。