・ 老いの現実をユーモアと品格で描いたD・ホフマン初監督作品。
「戦場のピアニスト」(02)など名作を手掛けているロナウド・ハーウッドの戯曲「想い出のカルテット~もう一度唄わせて~」を名優ダスティン・ホフマンが初監督。
音楽家たちが引退後身を寄せるビーチャム・ハウスに、かつてのプリマドンナ、ジーン・ホートンが現れる。資金調達のためヴェルディ生誕記念コンサートを企画していた施設は、リゴレット「美しき愛らしい娘よ」のカルテットをメインにしようするが・・・。
ヴェルディがミラノに「音楽家のための憩いの場」を作ったのをヒントに、場所を英国に移したフィクションだが、如何にも実存するような環境の雰囲気。
初監督のD・ホフマンは5歳からピアノを習っていて、ジャズピアニストになるのが夢だったという。本物の音楽家がエキストラで登場して演奏したり歌ったりしているあたりに彼の拘りを感じる。
ジーンに扮していたのは、マギー・スミス。5回の結婚歴がある激情家でハウスの入居した理由が元夫のレジーに謝るためだがプライドが高く面と向かって謝ることができない。
元夫のレジー(トム・コートネイ)はシニカルな口調もあるが理知的で近隣の学生にオペラの起源を講義する温厚な性格。
二人の仲人役だったウィルフ(ビリー・コノリー)は、自称プレイボーイで若いホームドクターを口説いたりする。
いまだにチャーミングなシシー(ポーリーン・コリンズ)は物忘れがひどく認知症が進んでいる。
こんな4人が再びカルテットを組んでステージに立てるだろうか?
全編におなじみの椿姫「乾杯の歌」、トスカ「歌に生き、愛に生き」、ミカド「学校帰りの三人娘」などが流れ、ラストへの期待が高まる構成は想定内で安心して見ていられる。
その分工夫が必要で監督の腕の見せ所でもあった。エンディングは<老年は弱虫では生きられない>という応援歌で、老いの現実と向き合いながら人間愛に満ちたものだった。