晴れ、ときどき映画三昧

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「ラビング 愛という名前のふたり」(16・米)80点

2017-09-03 12:23:30 | 2016~(平成28~)

・「結婚という犯罪」の実話をもとに、 静かな感動を呼ぶ純愛ストーリー。




約60年前、自由の国アメリカ合衆国で白人男性とアフリカ系アメリカ人女性の結婚が州法で禁止となっていた事実を知ったのは本作によってだった。ほかにもいくつかの州で異人種間(白人VS先住民やアフリカ系住民)の婚姻は禁止されていたのに驚かされる。

「MUDマッド」のジェフ・ニコルズは、TVドキュメント「The Loving Story」を見て脚本を書き下ろし、コリン・ファースの目に留まり映画化が実現したという。

1958年バージニア州キャロライン郡に暮らすレンガ職人の白人男性リチャードは、幼馴染で恋人ミルドレッドの妊娠を知ってプロポーズ。彼女の父を立会人にワシントンD.Cで結婚して故郷へ戻ってひっそりと暮らしていた。

しかし密告により逮捕され25年間一緒に戻ってはいけないという司法取引に応じる。ワシントンD.Cへ移住するが、出産は故郷で生みたい妻の希望を叶えるため戻ってくるが再逮捕されてしまう。

情状酌量によりワシントンD.C戻された夫妻だが、望郷の想いは捨てがたくミルドレッドはケネディ司法長官へ手紙を書く・・・。

公民権運動が盛んな時代に、運動家ではない市井のラビング夫妻の純粋な愛が国を動かして異人種間の結婚が合法となって行く感動の実話を基にした映画だが、ニコルズのアプローチはことさらドラマチックに煽り立てたりしない。

そのため、感動の涙を期待したり、丁々発止の法廷ドラマを予想していた観客は置き去りにされてしまう。

名作「招かれざる客」(67)のように声高に訴えたり、泣きわめいたりせず、状況を受け止めその範囲で愛情を確かめ合いながら暮らすごく当たり前な庶民の暮らしが、じわじわと感度を呼ぶ純愛ストーリーとして胸に沁み込んでくる。

リチャードを演じたジョエル・エドガートンは不器用ながら必死に家族を守ろうとする善きブルー・ワーカーになり切って素顔とは別人のような姿に俳優魂を感じる。

ミルドレッドに扮したルース・ネッガはもの静かななかに毅然とした芯の強さのある女性を身体全体に漂わせ、オスカー候補になった。「ラ・ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンにさらわれたが甲乙つけがたい好演だ。

脇を固めたライフ誌カメラマンのマイケル・シャノン、ACLU(アメリカ自由人権協会)指名の弁護士ニック・クロールの達者な演技も記憶に残る。

60年前の人種差別が、今も色濃く残る社会である現在、このような純愛ストーリーを監督した若干38歳のジェフ・ニコルズ。これからも注目して行きたい。