・ リアルさを超越した<熱い家族愛のドラマ>。
余命2か月の母とその家族の物語といえばお涙頂戴の感動ドラマを想像するが、これが商業映画デビューの中野量太作品はかなりユーモアを交えたユニークなテイスト。
家出した夫を連れ戻して家業の銭湯を再開し、イジメに遭って引きこもり寸前の娘を立ち直らせ、もうひとつ、どうしてもやらなければならないことがあった。
「紙の月」(14)で主演女優賞を総なめした宮沢りえが母・双葉を演じ、期待通りの母性愛で物語を引っ張って行く。
はまり役ともいえる、頼りないのに何故か周りが許してしまう生活感のない優しい父・一弘にオダギリ・ジョー。
その父の血を引いて気弱な娘の高校生・安澄にTV朝ドラ<とと姉ちゃん>の妹役でお茶の間に知られる杉咲花。
そして、家出と戻れない要因となった幼い連れ子の鮎子(伊東蒼)。
この奇妙な4人が一家を構え<銭湯・幸の湯>を無事経営して行けるのか?さりげない伏線をひとつひとつ回収しながら、双葉がやらなければならないこととは何なのか?が明かされ、衝撃のラスト・シーンとなる。
「天国と地獄」(黒澤明監督)のオマージュとも思える煙突に、タイトルが出てきのこ帝国主題歌<愛の行方>が流れるエンディングにはリアルさを超越した<熱い愛>がある。
現実にはあり得ない家族構成の4人が、リアルさを超越してしまう様々な工夫を凝らしたストーリーテーリングに監督の力量を感じる。
宮沢りえが日本アカデミー・主演女優賞、杉咲花が同・助演女優賞を獲得したのも納得の親子共演だった。