・ ジャズプレイヤーC・ベイカーになり切ったE・ホーク。
「6才のボクが、大人になるまで」のイーサン・ホークが、ウェストコ-スト・ジャズのトランペット奏者で、<ジャズ界のジェームス・ディーン>と呼ばれたチェット・ベイカーに扮した伝記映画。監督はロバート・バドロー。
ジャズやC・ベイカーに詳しくなくても、転落したひとりの男とそれを支えた女とのラブ・ストーリーとしても描かれている。
’88アムステルダムのホテルの窓から転落死した実在の天才ジャズプレイヤーC・ベイカーは、女性の遍歴とドラッグが付きまとう人生だった。
写真家ブルース・ウェーバーの映画「レッツ・ゲット・ロスト」(89)は、彼の晩年を撮ったドキュメンタリーだった。
本作は人気が陰り始めた頃、前歯を破損する大怪我から奇跡的なカムバックするまでを、オリジナル・ドラマ化している。
最大の見所は、E・ホークがC・ベイカーに乗り移ったクールな熱演ぶり。トランペットは吹き替えなのだろうが、半年の特訓で息遣いは寸分の狂いもなく、演奏スタイルもまるでベイカーが蘇ったよう。
彼の代表作<マイ・ファニー・バレンタイン>の甘い歌声も、キイは低いがホーク自身が披露している。
ビパップの巨匠チャーリー・パーカーに認められ、白人でありながらジャズ界に彗星のように現れたベイカーには、どうしても越えられない男がいた。
それは、東海岸にいる帝王マイルス・デイビス。神聖な場所NYのバードランドで演奏し「女と金のために演奏している奴は信用しない」といわれコンプレックスが募ってしまう。
それを献身的な愛で救ったのがジェーン(カルメン・イジョゴ)。実在の人物ではないが彼の音楽に多大な影響を与えたはずの何人かの女性を重ね合わせたエンジェル的存在として描かれ、本編がラブ・ストーリーの要素を構成している部分でもある。
音楽関係者ではレコード会社オーナーのデック・ボックやディジー・ガレスピーが彼に何度か救済の手を差し伸べたことも描かれている。
もう一度バードランドで演奏したとき、マイルスに拍手してもらったことで彼の時計の針は止まってしまったのかもしれない。