・米国先住民最後の英雄を、騎兵隊からの視点で描いた西部劇。
「ジェロニモ」といえば、アメリカ建国にとって欠かせない最後の先住民アパッチの英雄。西部劇では略奪や殺戮を重ね、白人たちを脅かす悪の象徴。
だが、もともと侵略をしたのは移住してきた白人たちで、どちらが正義だと言えばむしろ逆の立場。映画界もジョン・フォードが描いた西部劇は通用しないと、さまざまな西部劇が製作されてきたが本作もそのひとつ。
ジョン・ミリアスの原案・共同脚本でウォーター・ヒルが監督、ライ・クーダーの音楽、ロイド・エイハーンの撮影と豪華スタッフが新しい視点の西部劇に挑んでいる。
アパッチを保留地区に閉じ込めた史実をもとに、それに抵抗したジェロニモ(ウェス・ステューディ)に関わった主要人物が登場し、彼の人物像を明らかにして行く。物語は若き将校・デイヴィス中尉の回想で進み、前年「青春の輝き」でデビューしたマット・デイモンがナレーションも務めている。
その上司でジェロニモへの理解・友情に篤いゲイウッド中尉(ジェイソン・パトリック)がメインだが、主役陣のひとりという感じ。騎兵隊隊長のジョージ・クルック准将にジーン・ハックマン、アル・シーバー隊長にロバート・デュヴァルのベテランが扮し、このドラマに存在感を増している。
滅亡して行く民族の哀しみが全体で伝わってくる物語は、全体に派手さはないものの所々でメリハリの利いた戦闘シーンも描かれている。特に馬に跨っての一騎討ちは見所のひとつで前半J・パトリックが魅せた馬の扱いは目の肥えた西部劇ファンも唸るシーンだ。
このドラマでもっとも象徴的な存在は、騎兵隊に従いアパッチ追討に加担したチャト(スティーヴ・リーヴス)の存在。終息後はジェロニモたちと一緒に刑務所入りするハメになる。彼がテキサスのならず者達に捕らえられるのを救って落命したシーバーが生きていたら、どう思うだろうか?
アメリカ建国の歴史に汚点を残した先住民対策で理解と友情を示した人物たちはそれぞれの想いでその後を過ごしたことを余韻にこの西部劇はエピローグとなる。西部劇ファンには物足りないかもしれないが、筆者にはハリウッドの良心を感じる作りに好感を抱きながら観た。