晴れ、ときどき映画三昧

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「春との旅」(09・日) 80点

2014-11-08 15:42:58 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・小林政広監督・仲代達矢の集大成とベテラン脇役陣の演技比べ作品。

                    

 映画ファンを自称する筆者だが、不覚?にも小林政広監督作品は今まで観たことがなかった。本作を観て力量の程を実感するとともに、従来作品を見比べて集大成だったのでは?と感じた。

 さらに仲代達矢も数々の映画のなかでも、これがある意味で一区切りとなる好演であった。若かりし頃のエネルギッシュでシャープな演技、黒澤明作品で魅せた脂っこさも忘れられないが、どちらかというとオーバー・アクションが好みではなかった。ところが本作はフレーム内に収まった抑えた内面の演技で改めて感心させられた。

 <春>とは、北海道の増毛で暮らす元漁師・忠男の孫娘の名前。給食係として働いていた小学校が廃校になり失職して上京して職探しをしたい春。2人が忠男の受け入れ先を求めて姉・兄弟を訪ねる旅を通して、さまざまな家族・暮らし振りを垣間見るロード・ムービー。

 ニシン漁の夢を諦めきれず頑固に生きてきたが足が不自由になり漁も儘ならず、一人娘を自殺で失い残された孫娘に生活を委ねてきた忠男。

 長兄・重男夫婦(大滝秀治・菅井きん)夫婦を手始めに、仲の良かった弟、旅館経営で頑張っている姉(淡島千景)、不動産業を手広くやっている末の弟・道男夫婦(柄本明・美保純)を訪ねるが、身勝手な忠男を引き取り面倒を観る兄弟は現れない。

 豪華なベテラン俳優たちが、まるで演技比べをするように次々と現れ、仲代と競い合う様子は見応え充分だ。それぞれの事情を窺わせる台詞が散りばめられ、それを時にはにはロングショットで時にはアップでカメラが追う。

 淡島千景は長い芸歴でこれが遺作となってしまったが、ダメな弟を叱りつけ容赦なく追いかえしながら、見送る姿に姉としての愛情と惜別の瞬間を魅せ、さすが大女優の風格だった。

 小林監督のシナリオは、女性の理想像を願いながら描く監督のようだ。刑務所入りの夫を食堂経営で支える義妹・愛子役の田中裕子、末弟・道男の妻・明子役の美保純、自殺した娘婿・真一(香川照之)の後妻・伸子役の戸田菜穂など、殆ど初対面の2人を想いやりを持って迎え・見送っている。

 主演した大御所・仲代とペアで終始出ずっぱりだった春役の徳永えり。祖父への思い遣りと嫌悪が複雑に絡み合う。旅を続けながら、胸の内を吐き出した父への想い。監督の拘りの演出に耐えながら田舎の純粋な少女になりきった渾身の演技は、敢闘賞をあげたい。

 北海道・東北を殆ど順撮りしながらオール・ロケした映像は、北の風土・情景が映し出されている。その東北も3.11の震災で失ってしまった。2人の旅はもう再現不可能なのが感慨深い。

 日本映画の両巨頭・小津安二郎と黒澤明を意識したテーマと斬新映像は、誰もが意識していて小林政広もそのひとり。間違いなく本作によって受け継がれたというのは言い過ぎだろうか?