晴れ、ときどき映画三昧

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「ワイルド・バンチ」(69・米) 75点

2013-08-13 16:12:48 | 外国映画 1960~79
 ・ ヴァイオレンス・アクションの鬼才S・ペンパーの代表作。

  
 「荒野のガンマン」(61)、「昼下がりの決斗」(62)、「ダンディ少佐」(65)のサム・ペキンパーによる4年振りのアクション。ハリウッドと衝突していた渾身のヴァイオレンス・アクションは、後の映画界に引き継がれ彼の代表作となった。

 1913年テキサス国境の街にパイクを首領とする8人組の強盗が鉄道事務所に押し入る。ところがかつての仲間ソーントーンによるワナに掛かり、辛うじて逃げ延びた5人が持ち帰ったのは金貨ではなく鉄のワダチだった。時代はフロンティアが消滅し、文明の波に飲み込まれる西部の男たちは行き場がなくなっていて、メキシコではウェルタ政権に反旗を翻すパンチョ・ビラの革命軍などが争っていた。
ソーントーンに追われるお尋ね者となったパイクたちは、仲間のメキシコ人エンジェルの故郷へ新天地を求めて行く。そこで権力を握っていた政府支持軍マパッチ将軍から、米政府の輸送列車を襲撃して武器弾薬強奪を請け負う。

タイトルやキャストの表現手法がとても斬新で、そのままストーリーに入って行くプロローグが期待感を煽って素晴らしい。子供たちの遊びでサソリが無数のアリに喰われてゆくサマは何かを暗示しているようだ。上映後平和運動家やフェミニストから反感を買った、禁酒運動の行進をする一般市民が銃撃戦の巻き添えになる理不尽さに対して何のフォローもないストーリー展開は従来になかったパターンでもある。
 主演のパイクを始めソーントーン、マパッチ将軍など主要人物が全員悪なのも従来はあまりなかったし、強奪や娼婦を買ったり、大酒を飲むなど行動も共感を呼ぶモノは一切ない。だが老境に差しかかった無法者たちが滅びゆく姿を描写した抒情的表現には、日本の侠客もののような雰囲気を漂わせて壮絶な銃撃戦への前哨戦ともなっている。乾いた黄色い土、青い空、白い雲がその舞台を一層際立たせている。

 主演のパイクにウィリアム・ホールデン、相棒にアーネスト・ボーグナイン、元仲間のソーントーンにロバート・ライアンと渋い俳優を揃え、単なるヴァイオレンス・アクションではない男の哀愁を漂わせている。敵味方に分かれてしまったにもかかわらず、お互いを認め合っていたのも男にとっては堪らない魅力。たった4人で敵に向かって行くロングウォークは西部劇の決闘シーンを想い起こさせる。

 ハイライトは中盤の<鉄道の爆破シーン>と終盤の<大銃撃戦>がある。CGのないこの時代にこれだけの大仕掛けのシーンはペキンパーのチームだからこそできたと言える。鉄道の爆破シーンでは犠牲者が出たし、群衆シーンの銃撃戦は11日間ぶっ通しの撮影を敢行したという。6台のマルチカメラでのスローモーション撮影は暴力描写にある種の高揚感を覚え、新境地を開いた。
 
 音楽はメキシカン民謡を取り入れ、死の瞬間を官能的に捉える役割を果たしている。

 もっとも大変だったのは編集作業で約1年掛けて完成させている。編集のルイス・ロンバートはラッシュ時5時間あったフィルムを3時間45分に修正し、さらに2時間25分、そして2時間13分に編集完成させ上映に漕ぎ付けたという。

 この年、オスカー脚本・音楽賞にノミネートされたが受賞はならなかった。それ程のプロ集団による作品も失敗作と言われ、ニューズ・ウィーク誌では「辺境での何百人もの意味のない殺しは、何の教えも導かない。ただ辺境で何百人もが、殺されただけだ。」と酷評を受けている。しかしトキとともに名画座での再上映、ビデオ化、レンタルと評判を呼び、今では<アウトローたちへの鎮魂作>として再評価されている。

 同じ年オスカー作品・監督・脚色賞を獲得したのが「真夜中のカウボーイ」で、脚本・撮影賞獲得が「明日に向かって撃て!」だったのも興味深い。いわゆる<アメリカン・ニューシネマの時代>を象徴する作品のひとつであることは間違いない。