ランジェ公爵夫人
2006年/フランス=イタリア
バルザック作品を映像化した名匠J・リヴェット
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 85点
ビジュアル 90点
音楽 75点
「美しき諍い女」の名匠ジャック・リヴェットがバルザックの原作を忠実に映画化している。19世紀ナポレオン亡きあとルイ18世王政復古時代の貴族社会が舞台。フランス軍がスペインへ侵攻したときの将軍モンリヴォーは歓迎会を断り何故か修道院で唯一のフランス人修道女テレーズとの面会を強要する。2人は恋人同士だった。
ここから5年前パリの社交界での出逢いへさかのぼる。舞踏会で恋の駆け引きを楽しんでいるランジェ侯爵夫人(ジャンヌ・バリバール)とアフリカから帰国した無骨で直向きな軍人モンリヴォー(ギョーム・ドパルデュー)は傍から見ても危なっかしい。恋愛を頭で考える夫人と身体で愛そうとする将軍との恋の駆け引きは、支配者が入れ替わる恋愛のバイブルのような展開。映像化が難しいのでは?と思わせるバルザック作品をリヴェット監督はカット替わりを字幕でつなぐ緻密な構成と時代を再現した衣装・家具調度とともに見事な世界を披露してくれた。BGMを使わず、足音やドアのきしむ音、ろうそくの明かり、暖炉の火が臨場感や心の内面を映し出している。
ヒロインを演じたJ・バリバールは華やかさは感じないが色とりどりのコスチュームを着こなし、聡明な貴婦人の雰囲気が溢れていた。将軍のドパルデューは堂々たる体躯に恋に悩む苦渋を情感たっぷりな表情で好演していて早死にしたのがなんとも惜しい。バイク事故で右足を義足にしたことを役柄に活かした靴音と歩く姿が印象的。健在なら父親と並ぶフランスを代表する俳優になったことだろう。時代を窺わせる伯父・伯母役のミシェル・ピコリとビュル・オジエの存在感もこの作品には欠かせない。
当初ヌーヴェルバーグの旗頭と崇められた名匠渾身の2時間17分をフランス文学の世界にたっぷりと浸ることができた。