瞼の母('62)
1962年/日本
加藤泰・錦之助コンビで究極の股旅映画
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 80点
長谷川伸の原作は昭和初期の歌舞伎で六代目菊五郎が演じて一躍有名となって以来、新国劇(島田正吾)・映画(片岡千恵蔵)・歌謡曲(三波春夫など)で何度も演じられている。今まで観たなかで、この作品は最高位にランクされる出来。思春期に映画館で観て以来、何度か観るたびに同じ場面で涙した自分に今更ながら驚かされる。
錦之助の哀愁を帯びた番場の忠太郎を演出した加藤泰の才能は、翌年「関の弥太っぺ」を演出した山下耕作と並んで股旅ものの頂点といえる本作で見事に開花。独特のカメラアングルは冒頭の立ち回りで従来の東映時代劇とは違う新鮮な印象を持った。撮影・坪井誠、音楽・木下忠二のスタッフも絶妙の仕事ぶり。
五歳のときに生き別れした母を訪ねて旅を続ける忠太郎は、懐に百両を大事にしまって決して手をつけないでいる。再会した母がいい暮らしをしていれば良いが、もしも暮らしに困っているようならとの想いである。弟分・金町の半次郎(松方弘樹)の母(夏川静江)に手を添えてもらったとき思わず母の温もりを想像したり、橋のたもとで三味線を弾いて物乞いをする老婆(浪花千栄子)や老夜鷹おとら(沢村貞子)をもしや母親では?と尋ねるプロセスを経て実の母おはま(木暮実千代)に出会ったからこそ盛り上がるのだ。ベテラン女優の達者な演技が、それぞれ見せ場をつくって母を恋しがる忠太郎を際立たせている。