できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

何かおかしい気がするのだが、なぜだろう?

2011-10-24 21:43:59 | ニュース

昨日の夕方から続いていたブログの不具合(というか、OCNのホームページにログインできない状態)がようやく解消され、ブログも復旧しました。そこでひとつ、今日も何か書いておこうと思います。

今日、まずは指摘しておきたいのは、下記の記事に関してです。

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111024k0000e010064000c.html (生活保護家庭:貧困連鎖防止へ学習支援 来年度から補助金:毎日新聞のネット配信記事、2011年10月24日)

この記事によりますと、厚生労働省が生活保護世帯の子どもの学習支援活動に対して、次年度から自治体による取り組みなどに対する補助金を増額するそうです。まずは、そのこと自体に対しては、率直に「よかったね」というしかないかな、と私も思うのです。ですが・・・・。

ですが、ここでひっかかるんですよね。

そもそも、これ、厚生労働省が行うべき事業なんですかね? 文部科学省(文科省)が学校外の学習活動支援として取り組んでもよさそうな気がするんですが・・・・。

また、文部科学省として、生活困難な状況にある家庭の子どもたちの学習活動をどう支援しようと考えているのか、あまりそこが見えてこないのですが・・・・。

というのも、今日、たまたま授業準備を兼ねて、国際人権法政策研究所編『註釈・子どもの権利条約28条:教育についての権利』(現代人文社、2007年)を読んでいました。この本は、ベルギー人の子どもの人権論の研究者、ミーク・ベルバイドさんのまとめた子どもの権利条約28条に関する解説をもとに、国際人権法政策研究所のみなさんの補足説明、事例研究などを載せたものです。

それで、この本を読んでいると、たとえば義務教育の無償制に関する各国政府の積極的義務のなかには、「交通手段や栄養補給のような、通学を促進するための代替的戦略」(p.36)をとる必要があることが指摘されています。また、各国政府が担う無償の初等教育を提供する義務のなかには、「少なくとも貧困家庭の子どもに対して制服・教科書購入費用を援助する義務も含まれる」とか、「親からの強制的徴収や、相対的に高価な制服の着用義務のようなその他の直接的・間接的費用も、撤廃されなければならない」といった指摘もあります(p.32)。

さらには、日本政府が国際人権規約のうちいわゆる「社会権規約」において、第13条「教育への権利」の2項(b)(c)に留保をつけていること。つまり、さまざまな形態の中等教育や高等教育に対する「無償教育の漸進的な導入」によって、教育の機会均等実現に向けての措置を実施することに対して、日本政府が留保をつけていること。このことにたいして、『註釈・子どもの権利条約28条:教育についての権利』では、さまざまな形で批判が行われています。

このようなことを知ると、厚生労働省が生活保護世帯の子どもの学習支援に取り組む自治体に対して補助金を拡大することは、一見「好ましい」ことのように見えるのですが、「その前に、子どもの権利保障の観点に立って、そもそも文部科学省において、貧困世帯の子どもの就学・進学を困難にしている教育環境、特に学校教育にお金がかかる構造をなんとか改善すべきではないのか?」と言いたくなってしまいます。

なお、文科省の動きについて調べてみると、過去にはこんな記事もありました。

http://mainichi.jp/life/edu/news/20110928ddm012100063000c.html (給付型奨学金:高校生向けに創設、文科省方針 経済的困窮の大学生向けも:毎日新聞のネット配信記事、2011年9月28日)

貧困世帯の子どもの学習への支援ということでいえば、このような方向性をもっと、本来であれば文科省の施策として拡充すべきではないのでしょうか。

また、「そもそも、給付奨学金を出すことにあわせて、高校や大学の授業料をできるだけ安く、だんだん下げて、将来的には無償に近づける施策をするべきではないのか?」ということが、子どもの権利条約や社会権規約の趣旨であるはずだと、私などは『註釈・子どもの権利条約28条:教育についての権利』を読んで、あらためてそう思った次第です。

ちなみに、元・文科省の官僚で今は京都造形芸術大学の教員である寺脇研さんなどが、最近、ツイッターなどを見ていると、この給付奨学金の導入について、かなり積極的に評価をしているようです。

ですが、それはそれとして歓迎したいと思うものの、「だったらなぜ、あなたは文科省の官僚時代に、このような施策を導入する方向では動かなかったの?」と、つい一言いいたくなってしまいますね、私。

あと、「学校教育に個人や家庭の負担という形で、何かとお金がかかる構造を改善するということ。こういうことをほんとうは、子どもの人権保障や人権教育に熱心にとりくむ団体だとか、研究者の側から、もっと積極的に言っていかなければいけなかったのではないか?」と、わが身への反省、自己批判も込めて、ここで書いておきます。

ということで、今日のところはこのあたりでとどめます。

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