角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

似顔絵界の「神」。

2014年12月23日 | 実演日記




今日の草履は、仙北市の女性のオーダー草履です。お世話になった男性へのクリスマスプレゼントで、ご希望配色は「おまかせ」でした。贈り先の男性がお医者さんと聞き、ちょっと豪華に見える金色をベースにしたのがこちらです。数日前に編みあがっていたのですが、イヴに届くようあえて昨日郵送しました。男性のイヴが素敵な夜になってくれたら嬉しいですね。

秋田県にお住いの方であれば新聞・テレビ等でご存知かと思いますが、一昨日秋田市拠点センター・アルヴェにおいて「第四回東北にがおえサミット」が開かれました。東北内で活躍している似顔絵師六人が集い、売上の一部を被災地募金とするイベントです。参加した似顔絵師やスタッフの中に知人が複数いて、陰ながら私も応援していました。

かねがね思っているのは、似顔絵が究極の「パーソナルギフト」ではないかということなんです。「貴方のためだけに描いたもの」は、世の中に比較対象が存在しません。ユーザーにとってこんな嬉しい贈り物はないわけで、似顔絵をギフトとして捉える時代がもう来ていると感じていました。
その点において私の草履もカテゴリーで同一と思っています。定番配色を設けてはあるものの、オリジナル配色でのオーダーは日常にあります。お客様は「私の色」にとても大きな満足を見せてくれるわけですね。

昨日のこと、参加した似顔絵師の中でよく知るmarikoさんが、一人の男性を伴い訪ねてくれました。その男性には見覚えがあります。以前facebookで見かけた仙台市の「がんじーさん」なんですね。彼を私の記憶にとどめさせたのは、東北で初めて似顔絵専門店をオープンさせたという点でした。まさに「ギフト」を視野にいれているからこその常設店と感じたものです。

二十九歳の若さながら、東北の似顔絵業界で「神」と謳われるがんじーさん。その所以は高校生時代から始めていたキャリア、東北で初の専門店開設、似顔絵教室やカルチャークラブでの指導力など多岐に渡ります。けれども彼と話していて私が一番に感じたのは、真摯な態度と優しい人当り、そして似顔絵に対する高い志でした。さらに故郷を愛する心が素晴らしいですし、商いの視点においてもしっかりと考えをお持ちです。同業者が「神」と呼ぶのも納得でしたね。

彼は描きあげた似顔絵を、必ず自身のお店で直接手渡すことを原則としています。それはお客様が自身の「顔」に初めて遭遇する場面に、自分も立ち会いたいからにほかなりません。これは私も実によく分かるのですが、その場面が作り手にとって最高の瞬間なわけです。たとえば「今日の草履」を手に取った男性のお顔は、もしかしたら私が一番見たいかもしれませんよ。多くの似顔絵師が席描きにこだわるのは、皆その瞬間がたまらなく好きだからでしょう。

全国に様々なイベントがあるにもかかわらず彼が積極的に出掛けようとしないのは、お店に訪ねて見えるお客様を大切にしているからです。このたびの「にがおえサミット」だけは特別な思い入れがあるようで、かなり例外的とのことでした。彼が言うのは、『私は暮らしている仙台のお客様を大切にしたいんです。東京や大阪にはその土地の似顔絵師がいますから、商圏を広くは考えていません。むしろ仙台にいろんな似顔絵師が生まれてくれたほうが嬉しいですね』。将来ライバルになるかもしれない似顔絵師創出に尽力しているのですから、業界の伸びしろを確信しているのでしょう。

彼にひとつ面白い情報をいただきました。仙台市に延寿院というお寺があって、そこは「足の健康」を祀っているといいます。創建当時の住職が名だたる健脚の持ち主で、そこが由来となり「足」や「履物」にまつわる訪問者が後を絶たないのだそうです。草履、ワラジ、スリッパ、長靴まで奉納されているといいますから、次回仙台訪問の際に必ずうかがうことにします。そこから程近い彼の似顔絵ショップにもぜひ足を運びたいものです。

今年も間もなく終わりを迎えるときに、またひとり面白い御仁と出会えました。今年も多くの出会いに恵まれ、あっという間に過ぎた気がします。26日から年末休暇に入りますから、今年の草履実演も残すところあと二日。明日はクリスマスイヴ、最終日はクリスマスなれど、外は真冬日の寒さで人影はまばらです。サンタからの贈り物と思える出会いは、がんじーさんが最後かもしれませんね。


コメント (2)
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