角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

知られてません‥。

2006年09月03日 | 実演日記
今日の草履は、一般綿生地シリーズMサイズ23.0cm〔靴サイズ24cmまで可・・・3000円〕
紺のトンボ柄をベースに、以前花火を模したエンジを緒にしてみました。このエンジ生地はこれまでもいろいろなベースに合わせていますが、なかなか使える生地と思います。

今日も相変わらずの秋晴れ、湿度も低く過ごしやすいです。でも、角館の人たちはこの天気に少し渋い顔をしています。『なんでお祭り前がこう好天かねぇ』、これが理由です。
週間予報を見ますと、まずはそれほど悪くはないのですが、どうしても気になるのが台風12号。昨年は初日7日夜に台風の接近があり、翌8日のお昼まで強風に悩まされました。

角館のお祭りの知名度不足を、日に日に感じています。ビデオ放映しているお祭りの映像を観て、『あら~、どこかのお祭りやってる』や、『提灯がいっぱいね~、これ竿灯?』など、草履を編みながらひとりズッコケることがしばしばです。
青森県のバスガイドさんでさえ、『男の人たちがなんか作ってたけど、お祭りかなんかあるの?』。

そんな中で、東京からお越しのおばさまは、『角館は裕福なのよ、いまどきこれほどお金がかかるお祭りなんか、そうそう出来やしない』。
角館のお祭りを見たことも聞いたこともない方でしたが、ビデオ映像だけで「お金がかかっている」を判断するあたり、どこぞの大きなお祭りがある土地にお住まいなのかもしれません。

「角館のお祭り見物心得」その7

ビデオに見入るお客様のご質問で、最も多いのが『なぜぶつけるの?』。
全国にある山鉾(やまほこ)タイプのお祭りの中で、この「ぶつける」というのは極めて異例のようです。ですからこうしたご質問も多くなるのでしょう。同時に、「きっと理由がある」というのを直感するんだと思います。そうです、理由なくしてぶつけるわけがありません。

曳山には、「上り」もしくは「下り」という「状態」があります。「上り」というのは、神明社や薬師堂の参拝、あるいは佐竹北家上覧、または張番(はりばん)へ曳山をお見せに上がるといった、「目的」を持って進行している状態を指します。逆に下りというのは、そうした目的を達成した後の状態を指します。
またその状態を示すひとつとして、お囃子があります。「上り囃子」を奏でているときは「上り」の状態、「下り囃子」を奏でているときは「下り」の状態なわけです。

曳山同士が向かい合ったとき、どちらか一方が、あるいは双方が道を譲らなければ通ることができません。お祭りの曳山には、自動車のように左側通行もなければセンターラインもないわけです。
そこで「交渉」が入ります。このとき、「上り」のほうが「下り」より通行の優先権を持っているという絶対的な条件があります。明らかに「上り」「下り」がハッキリしていれば、「下り」が道を譲りますから問題ありません。交渉が難航するのは、どちらも「上り」を主張する場合です。
神明社や薬師堂、あるいは佐竹北家はそれぞれ一箇所しかありませんが、「張番」は各丁内に必ず配置されていますから、「上り」の状態は基本的にいつでも作ることができます。

ここで「張番」をご説明しておきましょう。「張番」というのは、各丁内に配置される関所のようなところで、その丁内で起こる祭り行事の一切を取り仕切ります。曳山はその丁内に入るときも出るときも、必ずお伺いを立てて許可を得なければなりません。基本的にお祭りを賑やかしてくれる曳山入丁は歓迎されますが、場合によっては断られることもあります。いずれにしても、張番の決定には従わざるを得ないわけです。

話を元に戻しますが、お互いが「上り」を主張する曳山同士であれば、即決での円満交差は望むべくもありません。それでも、すぐにぶつけるということもありません。相手の曳山に自らの主張を呑ませ、道を譲ることを延々と説得するわけです。もし仮に、この交渉で相手の曳山に道を譲らせたなら、このお祭りでは大殊勲、最高の栄誉と言えます。
ずいぶん昔の話では、ぶつけて帰ってきた自丁内の曳山に対し、年寄りたちは怒ったと云います。つまりそれは、「交渉が弱いからぶつけざるを得なかった」と解釈されたわけです。
よく観光でご覧の方々が、『いづまで待だせるおごー』『早ぐぶつけれー』と言うのは、この祭りの伝統を考え合わせると、「邪道」を叫ぶことになるわけですね。
世は移り変わり、現在では「ぶつける」ことが祭りの華のようになってしまいました。その良し悪しは別として、やはりぶつけるまでの経緯は今でもしっかり残されています。

延々の交渉の末、どちらも道を譲らないと結論した直後、「本番激突」が開始されます。文字通り、丁内の威信をかけた闘いがはじまるわけです。

次回はお祭りミニ知識、「ヤマの喧嘩と人の喧嘩」をお伝えします。

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