緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

NLPによって対人恐怖症は改善されるのか

2023-08-21 21:58:44 | 心理
最近、対人恐怖症の解決を目的としたセラピーとして、NLP(神経言語プログラミング)という技法を使ったセラピーを紹介したサイトをネットで見る機会があった。
NLPは現在の日本ではかなり多くの人が知っており、自己啓発やコミュニケーション改善、心理療法のための即効性の高い実践的なテクニックという印象を抱いているのではないかと思う。
日本での心理療法への応用としては、恐らく2000年前後頃に急速に広まったと思われる。
私は1987年からずっと心理関係の書物を頻繁に大型書店などで見てみてきたが、NLPに関する書物は1990年代までは殆ど見かけることはなかった。
実はNLPとはすでに1970年代半ばにアメリカで確立、提唱された手法だと言われている。
日本で急速に知られるようになったのは、NLPを分かりやすく解説し、誰でも実践で使えるようにした本が出版されてからだと記憶している。
著者は大学の先生ではなく、NLPを使う心理療法やセミナーを始めてからまだ間もない方であった。2000年くらいの頃だったと思う。

今から20年以上も前の話であるが、当時強い対人恐怖で仕事以外で人と関わることの出来なかった私はそれまでさまざまな心理療法を試してもなかなか思うように改善せず、行き詰っていたところにこの本を読んで藁をもすがる気持ちですぐに飛びついた。
そしてNLPを使った恐怖症改善の通信教材を結構な金額であったが買って試すことにしたのである。

そこで紹介されていた技法は、トラウマ体験のシーンを思い出し「記憶の上書き」によって、恐怖という反応が起きないようにするものであった。
具体的には、ビデオテープを巻き戻すイメージでトラウマ体験までさかのぼり、その辛い体験の映像を、別の映像にすり替え、上書きすることによって、恐怖という感情が起きないようにする手法であった。
対人恐怖となった過去の記憶を思い出し、それをあたかも映画館のスクリーンに映し出されているようにイメージし、そのイメージと異なる、本当はどうありたかったのか、というプラスのイメージをアンカリング(定着させる)していくのであるが、何度試してもそのイメージを定着させることは出来なかった。

何故、上書きするイメージが定着していかなかったのか。
今日、そのことについて思索してみた。
簡単な例を思い浮かべてみた。
幼い頃、犬に襲われて噛まれたという恐ろしい体験をした人が、それ以来、犬を見ると恐怖を感じて犬を見ると逃げたくなるというトラウマを抱えていたとする。
NLPによる記憶の上書きは、イメージで犬は実はかわいがってもらいたくて近寄ってきて、たまたま腕を噛んだだけなのだ、犬は人間と戯れたがっているのだ、というイメージにより行われる。
脳は現実とイメージの区別がつかないと言われている。だからこの事例の場合は、もしかするとイメージ変換による記憶の上書きは成功するかもしれない。
しかし、生れたときからこの子供が目にする殆どの犬から襲われ続けて、恐怖体験を繰り返していたらどうだろう。
このNLPの手法で恐怖反応が起きないようにすることは可能であろうか。
逆に、幼い頃から多くの犬と接し、犬からたくさんの愛情を受けて育った人が、実験的にこのNLPにより幼い頃までさかのぼり、犬が襲ってきて噛んで怪我をさせるというイメージを繰り返し行ったとして、果たしてその後に犬を見て恐怖を感じるようになるのであろうか。
恐らく、恐怖を感じるようにはならないだろう。何故ならば、この人は、幼い頃から数えきれないほどの犬の愛情を受けるという強烈な体験を積み重ねているからだ。

人間の場合で考えてみよう。
生れた時から家庭で虐待を受け、学校でもいじめに会い、人間全てに対して強い恐怖感、不信感、敵意などの感情が恒常的に起きている人がいたとする。
このような人がイメージの世界で過去にさかのぼり、記憶のイメージを改ざん、上書きする作業で人に対する恐怖が起こらないようになれるであろうか。
その理由として考えられるのは、このような人は、繰り返されるトラウマ体験で感じた恐怖が、その体験に対する受け止め方(自分が悪いから責められるなど)が単なる認識から観念→信念にまで強化されることで常態化し、イメージの変換という小手先のテクニックでは全く受けれられないほどの心理状態になっているためであると考えられる。

脳は現実とイメージの区別がつかないと言っても、疑似的なイメージを意識上で否定してしまっては体験で影響を受け身に付けた観念とか信念を覆すことは難しい。
だからNLPが登場するずっと以前から、催眠療法やサブリミナルなどの暗示療法が行われてきた。意識を通さず無意識に直接、働きかけようとする方法である。
私は2007年に呼吸法により脳を覚醒状態にまでもっていき、意識のズレを利用してプラスの暗示を吹き込むという心理療法を受けたことがあったが、この方法も同じである。
暗示やイメージが定着しやすい心理状態を人工的に作り出し、その状態で、マイナスの認識や観念をプラスに変換させていくという方法であることはNLPと基本的には変わりない。しかし現在、催眠療法を看板に掲げて心理療法を行っているところを殆ど見かけなくなった。

(この続きは後日にします)




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2 コメント

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回避性パーソナリティ障害 (izu)
2023-08-22 21:15:08
私は、最近「生きるのが面倒くさい人 回避性パーソナリティ障害」(朝日新書)という本を読み、自分のことが書いてあるように感じました。岡田尊司(おかだたかし)氏という精神科医の著書です。この本のカバーに書いてあるのは「自分に自信がなく、人から批判されたり恥をかくのが怖くて、社会や人を避けてしまう。それが回避性パーソナリティの特徴だ。」という一文です。ご興味があったら、amazon でも覗いてみてください。対人恐怖と関係があるかもしれません。
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Unknown (緑陽)
2023-08-22 22:35:45
izuさん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。
確かに対人恐怖症は強い恐怖感情により生きるエネルギーが奪われ、恐怖感情から派生した他の感情、例えば怒り、悲しみ、失望、絶望、自己嫌悪、不安、強迫感、鬱などにも苦しめられます。そしてこれらの感情との葛藤で消耗し、次第に生きるのが面倒に感じ、引きこもりや、最悪自殺にまで行きつくようになるのだと思います。
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