今日(10月11日)、東京台東区のミレミアムホールで、第33回スペインギター音楽コンクールが開催されたので、聴きに行った。
このコンクールを初めて聴いたのは今から24年前の1991年のこと。
それ以来今日まで数回の抜けはあったが、ほぼ毎年聴いてきた。
若い時はコンクールの緊張感に興奮を感じたものだったが、20年以上も繰り返し聴いているといささか飽きを感じるのも無理はない。
曲目がスペイン音楽に限定していることもあろうが、毎年同じようなおなじみの曲ばかりが繰り返されるからだと思う。
協会の規定では本選の自由曲は「スペイン作曲家による作品」とあるので、もっと知られていない現代音楽を発掘して弾いてくれる方が現れないかと密かに期待しているのである。
今年から自由曲の持ち時間が5分延長され15分間となったが、単一の曲を選ぶにしても複数曲の組み合わせにするにしても、従来の選曲の傾向を打破して欲しいと願う。
第二次予選の課題曲がアルベニスの「グラナダ」で演奏時間が長かったせいか、本選の開催時間が遅れたのと、本選の持ち時間が延長されたことで帰宅時間が遅くなってしまった。
なのでこの記事を書き終えるのが1時を回ってしまうであろう。
会場に着いたのが午後2時過ぎで、第2次予選は半分ほど終わっていた。
今年の課題曲はアルベニスの「グラナダ」。スペイン組曲Op.47の第1曲目である。
アルベニスが死の床にあっても想いを馳せたと言われているグラナダの印象、とくに短調に転調してから主題に戻るまでのフレーズがとても美しい。これはセレナードとも言えるものであろう。
実際今日の出場者の演奏を聴いて、これまでのコンクールで聴くよりも心が安らかになれたのはこの曲の力によるものなのか。
この曲を初めて聴いたのは1976年頃だったであろうか。
荘村清志がNHKの「名曲アルバム」でアルハンブラの思い出を弾いていた時、冒頭にその一部のフレーズが流れていたのである。
私がクラシックギターを始めた頃であり、とにかくクラシックギターの曲であれば何でも感動していた頃だ。
その翌年に初めて買ったLPレコードで、イエペスの6弦時代の録音を聴いた。
このイエペスの演奏があまりにも強く印象に残りすぎて、他のグラナダの演奏を聴いてその良し悪しを判断する際の基準になっているのである。この演奏を何度聴いたことか。
今日帰宅して、この6弦時代のイエペスの録音、そしてジュリアン・ブリーム、マヌエル・バルエコの録音を聴いてみた。ブリームも素晴らしいがやはりイエペスの方がいい。バルエコはとても参考になるレベルとは言えない演奏だ。
ピアノの録音も聴こうと思ったが、時間がもう遅い。明日にしよう。
第2次予選は先述したように半分ほどしか聴いていないので、いい演奏がどのくらいあったが完全には分からないが、私が聴いた範囲ではバルエコ編の編曲を使用している方が殆どだったようだ。
阿部保夫編の旧版を使用されている方がいたが、短調に移調する直前のフレーズが原曲と異なっているうえに、グリッサンドが多用されており、かなり恣意的な編曲なので、同じ阿部保夫編でも阿部恭士氏との共編の方が良かった。
なおこの曲のギター編曲版にはイ長調によるもの(川井善晴編曲)がある。このイ長調による編曲もなかなかのものである。
今回のコンクールでもタッチを弦に対し45度くらの角度で弾いている方が少なからずいたが、このタッチで芯のある音を出せるのであろうか。この角度でラスゲアードはきつい。見ていて指の動きが自然にかなっていないように思える。
この角度だと必然的に爪の右半分で弦を弾くことになるので、輪郭のばやけた不明瞭な音にならざるを得ない。
今日の出場者でこの斜めの角度と、垂直か垂直に近い角度の奏者の音の違いを注意深く聴いてみたが、やはり大きな差を感じた。
さて本選であるが、選出されたのは以下の6名。6名の審査結果も合わせて示す(カッコ内は私が付けた順位)。
課題曲:椿姫の主題による幻想曲(タレガ又はアルカス編)
1.井本響太さん:第4位(第4位) 自由曲:ソナタ・ジョコーサ
2.杉田文さん:第6位(第5位) 自由曲:ソナタ・ジョコーサ
3.大沢美月さん:第5位(第6位) 自由曲:トゥリーナ「セヴィリアーナ」、タレガ「ベニスの謝肉祭による変奏曲」
4.山田唯雄さん:第1位(第2位) 自由曲:マネン「ファンタジア・ソナタ」
5.斎藤優貴さん:第2位(第1位) 自由曲:ホセ「ソナタより第1、2、4楽章」
6.長祐樹さん:第3位(第3位) 自由曲:アセンシオ「内なる思いよりⅠ、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ」
以下に各演奏者の演奏に対する感想を簡単にレポートしたい。
まず演奏順1番の 井本響太さんであるが、課題曲の出来は良かった。タッチが柔らかく静かであるが、繊細で独特の音作りに感心した。ただし、タッチの角度が先に述べたように弦に対し45度くらいに斜めにしており、音に芯が感じられなかった。やはり聴いていると音の輪郭がはっきり聞こえてこない。随所に強い直線的な芯のある音をがあるともっと素晴らしいと思った。自由曲はロドリーゴの難曲であったが、テクニックは申し分ない。特に左手の柔軟さは模範的でもある。惜しいことに途中で度忘れがあったために大きく減点されたのではないか。
2番手の杉田さんであるが、第2次予選の音に魅力を感じたが、本選ではちょっとイメージが違っていた。演奏がややこじんまりとした印象を感じた。もっと感情的な盛り上がりが欲しいと思った。音は透明感が高くかつ芯があるが、高音がメタリックな音になっていたのが残念。自由曲はテクニック面で精いっぱいという感じで、音楽表現にまで余裕が出ていない印象があった。第2楽章はもっと音を保持してたっぷりと歌っていい。テンポがやや性急に感じた。第3楽章はスペインの激しい歯切れのいいリスムを出してほしかった。祭り事のような華やかさ、楽しさが欲しい。ただ音を磨くことと、もっとパワーのある表現を身に着けていけばこの先期待できる奏者だと思う。
3番手の大沢美月さんであるが、課題曲はメロディ・ラインが細く硬い。トレモロの後の盛り上がりが欠けており、その後の感傷的なフレーズも音が単調で一本調子。最後の盛り上がりももっとパワーが欲しい。
自由曲のセヴィリアーナも音が細く、もっと太さと前面に出てくるようなパワーが欲しいと感じた。中間部の夜の静けさを感じさせる部分と激しい部分とのコントラストを感じさせて欲しいと思った。ベニスの謝肉祭は高音に硬さが目立ち、ギターの音の魅力をもっと引き出して欲しいと感じる。ユーモアを感じさせるフレーズは余裕のある気持ちで、思い切った表現をしても良いと思う。
4番手の山田唯雄さんは一昨年のコンクールでもお見かけした。その時よりも大きく成長されていた。
まず音が力強く、一昨年目立った雑音は皆無に近く、説得力のある力強い音であった。力強いだけでなく、繊細な弱音が出せていてその音の表現の多彩さが際立っていた。課題曲のトレモロの後の盛り上げかたも素晴らしく、その後の繊細な表現もよく出来ていた。落ち着いた自信に満ちた演奏であり、最後の難しいパッセージの連続では音のびりつきはあったが、力強い終わり方であった。
自由曲のマネンの曲はよほど上手く表現しないと聴き手を退屈させてしまう長大な曲であるが、楽器をフルに響かせ、幅のある表現でこの曲の欠点を良くカバーしていたと思う。しかし難しいパッセージでの1音1音がやや不明瞭になっているところがあり、音の明確性が欲しかった。
5番手の斎藤優貴さんも一昨年のコンクールでお見かけした。その時は6位であったが私は3位を付けた。音楽の流れがとても自然で、集中できたからだ。また昨年の東京国際ギターコンクールでも本選で出場を果たした。課題曲の伊福部昭の曲は本選出場者の中では最も聴き応えがあった。
今年の課題曲の演奏は素晴らしかった。この本選出場者の演奏の中で1番感動した。音楽の流れが自然なのである。それがこの人の良さだと思う。テンポ、音の強弱がその曲のが本来持っているであろう最も自然な流れを感じる。そして歌い回しが素晴らしい。歌っているのが聴こえてくる。
惜しいことに音がやや硬質で小さいので、審査員にとってはインパクトが足りなかったのかもしれない。しかし、音楽の捕らえ方に天性のものを感じる。その特性を今後伸ばしてもらいたい。期待している。
自由曲の完成度はとても高かった。今まで聴いたこの曲の出来では、数年前の東京国際ギターコンクールで聴いた外国人の奏者以来である。
この曲は1990年代前半のジュリアン・ブリームの東京公演で初めて聴いたが、このような本格的なギター曲が埋もれたままになっていたことに驚いた。ギター曲で最も欠けているのは、このようなソナタ形式の格調高い大曲に乏しいことである。技巧面でも音楽面での最高度のレベルを要する曲があまりにも少ないことが、クラシックギター界を停滞させていると思う。
斎藤さんの自由曲の演奏はほぼ完璧な演奏であり、派手さは無いが、しなやかや音の運び、音楽の流れが自然で無理が無く、速いパッセージでも1音1音が分離して聴こえ、またアルペジオでは音の「うねり」も感じることができた。
今回2位に終わったのが残念に思うが、まだ10代で若いのでこれからが楽しみである。
最後の奏者となった長祐樹さんも一昨年のコンクールで聴かせて頂いた。この方の演奏は大人の演奏だと思う。とても理知的なものを感じる。
課題曲はメロディラインが今一つ単調に感じた。演奏が慎重すぎるのかもしれない。もっと感情にまかせる部分があってもいいように思う。トレモロの後の盛り上がりが欲しかった。最後の天にまでかけ上っていくような嬉しい気持ちの盛り上がりを感じさせてくれても良いのだと思ったのだが、長さんの持ち味はこのような曲ではなく別の曲で感じさせてくれるように思う。一昨年聴いた古典曲が印象に残っていたからだ。
自由曲はⅠがやはり慎重な弾き方であったが、Ⅱの演奏が素晴らしかった。派手さはないが堅実な演奏で安定感を感じる。感情の盛り上がりにやや欠けるが大人の演奏だと感じた。
今年のコンクールは上位の方のレベルが非常に高かったと思う。
コンクールに入賞してもなかなか表舞台に出てこれない厳しさが今の音楽界にある。
一歩抜きんでるためには、やはりギター音楽の域にとどまらず、ギター以外のクラシックのジャンルに踏み出すことが必要だと確信する。
正直いって、ギター音楽界は例えばピアノ界から比べると雲泥の差がある。とても大きな差である。
ギターをやる方はギター界の外に出ていくことが少ない。かつてイエペスがしたようにギター音楽以外の純クラシックの音楽に触れ、またできればピアノやヴァオリンの第一人者に直接アドヴァイスしてもらえる機会を求めてもいいと思う。
作家だって出版社に10回以上断られてもめげずに自分の作品を見てもらい、後にその作品を高く評価されたことだってある。
コンクールは自分の存在を関係者に知ってもらう手段の一つに過ぎない。セゴビアやイエペス、ブリームが作曲家にコンタクトを取り、ギター曲を開拓していった時代が今日においても盛んになることを期待したい。
このコンクールを初めて聴いたのは今から24年前の1991年のこと。
それ以来今日まで数回の抜けはあったが、ほぼ毎年聴いてきた。
若い時はコンクールの緊張感に興奮を感じたものだったが、20年以上も繰り返し聴いているといささか飽きを感じるのも無理はない。
曲目がスペイン音楽に限定していることもあろうが、毎年同じようなおなじみの曲ばかりが繰り返されるからだと思う。
協会の規定では本選の自由曲は「スペイン作曲家による作品」とあるので、もっと知られていない現代音楽を発掘して弾いてくれる方が現れないかと密かに期待しているのである。
今年から自由曲の持ち時間が5分延長され15分間となったが、単一の曲を選ぶにしても複数曲の組み合わせにするにしても、従来の選曲の傾向を打破して欲しいと願う。
第二次予選の課題曲がアルベニスの「グラナダ」で演奏時間が長かったせいか、本選の開催時間が遅れたのと、本選の持ち時間が延長されたことで帰宅時間が遅くなってしまった。
なのでこの記事を書き終えるのが1時を回ってしまうであろう。
会場に着いたのが午後2時過ぎで、第2次予選は半分ほど終わっていた。
今年の課題曲はアルベニスの「グラナダ」。スペイン組曲Op.47の第1曲目である。
アルベニスが死の床にあっても想いを馳せたと言われているグラナダの印象、とくに短調に転調してから主題に戻るまでのフレーズがとても美しい。これはセレナードとも言えるものであろう。
実際今日の出場者の演奏を聴いて、これまでのコンクールで聴くよりも心が安らかになれたのはこの曲の力によるものなのか。
この曲を初めて聴いたのは1976年頃だったであろうか。
荘村清志がNHKの「名曲アルバム」でアルハンブラの思い出を弾いていた時、冒頭にその一部のフレーズが流れていたのである。
私がクラシックギターを始めた頃であり、とにかくクラシックギターの曲であれば何でも感動していた頃だ。
その翌年に初めて買ったLPレコードで、イエペスの6弦時代の録音を聴いた。
このイエペスの演奏があまりにも強く印象に残りすぎて、他のグラナダの演奏を聴いてその良し悪しを判断する際の基準になっているのである。この演奏を何度聴いたことか。
今日帰宅して、この6弦時代のイエペスの録音、そしてジュリアン・ブリーム、マヌエル・バルエコの録音を聴いてみた。ブリームも素晴らしいがやはりイエペスの方がいい。バルエコはとても参考になるレベルとは言えない演奏だ。
ピアノの録音も聴こうと思ったが、時間がもう遅い。明日にしよう。
第2次予選は先述したように半分ほどしか聴いていないので、いい演奏がどのくらいあったが完全には分からないが、私が聴いた範囲ではバルエコ編の編曲を使用している方が殆どだったようだ。
阿部保夫編の旧版を使用されている方がいたが、短調に移調する直前のフレーズが原曲と異なっているうえに、グリッサンドが多用されており、かなり恣意的な編曲なので、同じ阿部保夫編でも阿部恭士氏との共編の方が良かった。
なおこの曲のギター編曲版にはイ長調によるもの(川井善晴編曲)がある。このイ長調による編曲もなかなかのものである。
今回のコンクールでもタッチを弦に対し45度くらの角度で弾いている方が少なからずいたが、このタッチで芯のある音を出せるのであろうか。この角度でラスゲアードはきつい。見ていて指の動きが自然にかなっていないように思える。
この角度だと必然的に爪の右半分で弦を弾くことになるので、輪郭のばやけた不明瞭な音にならざるを得ない。
今日の出場者でこの斜めの角度と、垂直か垂直に近い角度の奏者の音の違いを注意深く聴いてみたが、やはり大きな差を感じた。
さて本選であるが、選出されたのは以下の6名。6名の審査結果も合わせて示す(カッコ内は私が付けた順位)。
課題曲:椿姫の主題による幻想曲(タレガ又はアルカス編)
1.井本響太さん:第4位(第4位) 自由曲:ソナタ・ジョコーサ
2.杉田文さん:第6位(第5位) 自由曲:ソナタ・ジョコーサ
3.大沢美月さん:第5位(第6位) 自由曲:トゥリーナ「セヴィリアーナ」、タレガ「ベニスの謝肉祭による変奏曲」
4.山田唯雄さん:第1位(第2位) 自由曲:マネン「ファンタジア・ソナタ」
5.斎藤優貴さん:第2位(第1位) 自由曲:ホセ「ソナタより第1、2、4楽章」
6.長祐樹さん:第3位(第3位) 自由曲:アセンシオ「内なる思いよりⅠ、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ」
以下に各演奏者の演奏に対する感想を簡単にレポートしたい。
まず演奏順1番の 井本響太さんであるが、課題曲の出来は良かった。タッチが柔らかく静かであるが、繊細で独特の音作りに感心した。ただし、タッチの角度が先に述べたように弦に対し45度くらいに斜めにしており、音に芯が感じられなかった。やはり聴いていると音の輪郭がはっきり聞こえてこない。随所に強い直線的な芯のある音をがあるともっと素晴らしいと思った。自由曲はロドリーゴの難曲であったが、テクニックは申し分ない。特に左手の柔軟さは模範的でもある。惜しいことに途中で度忘れがあったために大きく減点されたのではないか。
2番手の杉田さんであるが、第2次予選の音に魅力を感じたが、本選ではちょっとイメージが違っていた。演奏がややこじんまりとした印象を感じた。もっと感情的な盛り上がりが欲しいと思った。音は透明感が高くかつ芯があるが、高音がメタリックな音になっていたのが残念。自由曲はテクニック面で精いっぱいという感じで、音楽表現にまで余裕が出ていない印象があった。第2楽章はもっと音を保持してたっぷりと歌っていい。テンポがやや性急に感じた。第3楽章はスペインの激しい歯切れのいいリスムを出してほしかった。祭り事のような華やかさ、楽しさが欲しい。ただ音を磨くことと、もっとパワーのある表現を身に着けていけばこの先期待できる奏者だと思う。
3番手の大沢美月さんであるが、課題曲はメロディ・ラインが細く硬い。トレモロの後の盛り上がりが欠けており、その後の感傷的なフレーズも音が単調で一本調子。最後の盛り上がりももっとパワーが欲しい。
自由曲のセヴィリアーナも音が細く、もっと太さと前面に出てくるようなパワーが欲しいと感じた。中間部の夜の静けさを感じさせる部分と激しい部分とのコントラストを感じさせて欲しいと思った。ベニスの謝肉祭は高音に硬さが目立ち、ギターの音の魅力をもっと引き出して欲しいと感じる。ユーモアを感じさせるフレーズは余裕のある気持ちで、思い切った表現をしても良いと思う。
4番手の山田唯雄さんは一昨年のコンクールでもお見かけした。その時よりも大きく成長されていた。
まず音が力強く、一昨年目立った雑音は皆無に近く、説得力のある力強い音であった。力強いだけでなく、繊細な弱音が出せていてその音の表現の多彩さが際立っていた。課題曲のトレモロの後の盛り上げかたも素晴らしく、その後の繊細な表現もよく出来ていた。落ち着いた自信に満ちた演奏であり、最後の難しいパッセージの連続では音のびりつきはあったが、力強い終わり方であった。
自由曲のマネンの曲はよほど上手く表現しないと聴き手を退屈させてしまう長大な曲であるが、楽器をフルに響かせ、幅のある表現でこの曲の欠点を良くカバーしていたと思う。しかし難しいパッセージでの1音1音がやや不明瞭になっているところがあり、音の明確性が欲しかった。
5番手の斎藤優貴さんも一昨年のコンクールでお見かけした。その時は6位であったが私は3位を付けた。音楽の流れがとても自然で、集中できたからだ。また昨年の東京国際ギターコンクールでも本選で出場を果たした。課題曲の伊福部昭の曲は本選出場者の中では最も聴き応えがあった。
今年の課題曲の演奏は素晴らしかった。この本選出場者の演奏の中で1番感動した。音楽の流れが自然なのである。それがこの人の良さだと思う。テンポ、音の強弱がその曲のが本来持っているであろう最も自然な流れを感じる。そして歌い回しが素晴らしい。歌っているのが聴こえてくる。
惜しいことに音がやや硬質で小さいので、審査員にとってはインパクトが足りなかったのかもしれない。しかし、音楽の捕らえ方に天性のものを感じる。その特性を今後伸ばしてもらいたい。期待している。
自由曲の完成度はとても高かった。今まで聴いたこの曲の出来では、数年前の東京国際ギターコンクールで聴いた外国人の奏者以来である。
この曲は1990年代前半のジュリアン・ブリームの東京公演で初めて聴いたが、このような本格的なギター曲が埋もれたままになっていたことに驚いた。ギター曲で最も欠けているのは、このようなソナタ形式の格調高い大曲に乏しいことである。技巧面でも音楽面での最高度のレベルを要する曲があまりにも少ないことが、クラシックギター界を停滞させていると思う。
斎藤さんの自由曲の演奏はほぼ完璧な演奏であり、派手さは無いが、しなやかや音の運び、音楽の流れが自然で無理が無く、速いパッセージでも1音1音が分離して聴こえ、またアルペジオでは音の「うねり」も感じることができた。
今回2位に終わったのが残念に思うが、まだ10代で若いのでこれからが楽しみである。
最後の奏者となった長祐樹さんも一昨年のコンクールで聴かせて頂いた。この方の演奏は大人の演奏だと思う。とても理知的なものを感じる。
課題曲はメロディラインが今一つ単調に感じた。演奏が慎重すぎるのかもしれない。もっと感情にまかせる部分があってもいいように思う。トレモロの後の盛り上がりが欲しかった。最後の天にまでかけ上っていくような嬉しい気持ちの盛り上がりを感じさせてくれても良いのだと思ったのだが、長さんの持ち味はこのような曲ではなく別の曲で感じさせてくれるように思う。一昨年聴いた古典曲が印象に残っていたからだ。
自由曲はⅠがやはり慎重な弾き方であったが、Ⅱの演奏が素晴らしかった。派手さはないが堅実な演奏で安定感を感じる。感情の盛り上がりにやや欠けるが大人の演奏だと感じた。
今年のコンクールは上位の方のレベルが非常に高かったと思う。
コンクールに入賞してもなかなか表舞台に出てこれない厳しさが今の音楽界にある。
一歩抜きんでるためには、やはりギター音楽の域にとどまらず、ギター以外のクラシックのジャンルに踏み出すことが必要だと確信する。
正直いって、ギター音楽界は例えばピアノ界から比べると雲泥の差がある。とても大きな差である。
ギターをやる方はギター界の外に出ていくことが少ない。かつてイエペスがしたようにギター音楽以外の純クラシックの音楽に触れ、またできればピアノやヴァオリンの第一人者に直接アドヴァイスしてもらえる機会を求めてもいいと思う。
作家だって出版社に10回以上断られてもめげずに自分の作品を見てもらい、後にその作品を高く評価されたことだってある。
コンクールは自分の存在を関係者に知ってもらう手段の一つに過ぎない。セゴビアやイエペス、ブリームが作曲家にコンタクトを取り、ギター曲を開拓していった時代が今日においても盛んになることを期待したい。
思っていますが今回もうっかりして開催日を調べるのを忘れていました。
それにしても詳しい解説をありがとうございます。初心者の私には解説内容について想像もできませんが、実際の演奏を聴いたうえで少しでも理解できるようになりたいですね。今年も大沢先生のお孫さんが参加されていたのですね。
このコンクールは10月初旬の3連休の日曜日に開催されることが多いです。
しかし過去に開催日を確認しないで行ったら、1週間後だった、ということがありました。開催日の確認はした方が良いと思います。
現在の会場である台東区ミレミアムホールはかっぱ橋道具街のすくそばにあり、この三連休は、かっぱ橋道具祭りが開催されるので、会場の入り口付近に出店が立ち並びまず。
昨日は昼ご飯を食べないで会場へ行ったので、本選前の休憩時間にこの出店で豚まんとシューマイを食べましたがおいしかったですね。
おっしゃるように、昨年亡くなられた故、大沢一仁さんのお孫さんである大沢美月さんが今年も出場されていました。一昨年見た時はまだあどけなさを感じましたが、今年は一段と成長した姿を見ることができました。
プロを目指していると思いますが、女性のプロギタリストはまだまだ少なく、将来の活躍を期待します。