緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

斎藤秀雄の指揮法(タタキ)

2017-12-28 20:59:16 | マンドリン合奏
合奏の重要なポイントは当たり前と言われるかもしれないが「音のズレを無くす」、「押さえ間違いを無くす」の2つだと思う。
合奏の生演奏や録音を聴いて思うのは、いつもこの2つの重要性だ。
この2つを達成できていない演奏を聴くと、聴き手は演奏者の練習不足を意識的、無意識的に知覚する。
折角いい演奏をしていてもこれらが目立ってしまうとかなり興ざめしてしまうものだ。

「押さえ間違いを無くす」ためには個人の練習に依存するが、「音のズレを無くす」ためには個人の練習だけでは達成できない。
いくらリズムを正確に刻み、テンポを正確に測れる能力があっても、音楽は機械でコントロールしていくわけではなく、人間がコントロールしていくわけだから、作品をコントロールする役割を担う指揮者の存在と責任は大きい。

私が学生時代に所属していたマンドリンクラブの指揮は、リズムやテンポが分かりやすかった。
難しい入りやリズムの時には指揮者の指揮棒が唯一の頼りであった。
学生時代の演奏を思い出すと、とにかく良く指揮を見たものだ。
学生のような素人が指揮を見ずして音を合わせることはまず出来ない。
学生時代の指揮者の指揮の特色は「打点」が明確だったことだ。
指揮棒が振り下ろされ、そして振り下ろされた最も下の地点が視覚的に明確に分かる指揮法だった。

この指揮法が何というメソッドに基づいていることなど当時は全く関心が無かったが、今から5年ほど前に学生時代に演奏した時の大量の楽譜が実家の物置から偶然発見され、家に持ち帰って1つ1つ過去を懐かしみながら見ていった中に、当時の先輩が書いてくれた指揮法の簡単な解説が見つかった。
その資料を25年ぶりに見たが、学生時代のマンドリンクラブの指揮が「斎藤秀雄」の指揮法をベースとしていることが記載されていた。



ここで初めて斎藤秀雄のメソッドを知る。
そして彼の超ロングセラーである「指揮法教程」(音楽之友社、初版1956年)を古本で買った。





斎藤秀雄と言えば、クラシックファンなら誰でも知っている、小澤征爾、堤剛、秋山和慶などの大家を育てた指揮者、チェリスト、教育者である。
意外なことに最初に手にした楽器はマンドリンであり、マンドリンオーケストラを組織したこともあったという。
「サイトウ・キネン・オーケストラ」という楽団を聞いたことがある人は多いと思うが、小澤征爾、秋山和慶が中心になって、斎藤秀雄の教え子たちで結成されたオーケストラだ。

斎藤秀雄は教育者として大変厳しかったようだ。
購読している新聞で今、弟子の秋山和慶氏のエッセイが連載されているが、今日の記事では、斎藤秀雄の指揮法について触れていたので、一部紹介させていただく。
『そうして指揮の基本動作を七つに絞りました。有名なのが「タタキ」です。上から手を落とし、跳ね返らせる。その瞬間に生まれる「点」に、楽員たちが反応して音を出すわけです。皆の心をそろえるため、自ら「無心」になる。技術はそのためにある。先生の教えはこれにつきます。』
『小澤征爾さんが1959年、日本人で初めて仏ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したとき、先生に「タタキ」は最大の武器である」って電報を打ってこられたのですが、先生、それはそれはうれしそうでした。』




「タタキ」が生み出す打点に演奏者たちが反応して音を出す、この瞬間の気持ちの高揚というのは、合奏経験者でないと分からないと思う。
何か目に見えない潜在的な不思議な力が生み出されて、その力に導かれるようにみんな物凄い高い集中力で音を合わせようとする。
人それぞれに芽生えたこの精神的エネルギーがきっと何倍にも増幅されて、聴き手の心の奥底まで貫くのだと思う。

学生マンドリンオーケストラの中には、この一生にそう何度もあるはずのない貴重な瞬間を体験する機会を創り出そうとしていない団体もあるように思う。
片手間にやるというスタンスであれば必然的にそうなるのであろうが、若い時に先に書いたような体験をしたことで、その後、何十年かの人生の重要な局面で救いの力を与えてくれることがあることをいいたい。
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