緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

伊福部昭のギター曲を聴く 「ギターのためのトッカータ」

2012-07-22 18:52:16 | ギター
こんにちは。
半袖だと肌寒いほどの涼しい日が続いています。
現在、伊福部昭の作曲した3つのギター曲のうち、「ギターのためのトッカータ」を練習しているのですが、今日はこの曲を紹介します。
私がこの曲と出会ったのは大学2年生の時です。今から30年くらい前ですが、当時所属していた大学のマンドリン・ケーケストラで演奏していた鈴木静一の作風に魅了され、ギター独奏曲でも同じような曲がないものかと、探していました。
伊福部昭の名前そのものは当時使用していた全音の教則本の巻末の広告に掲載されていた、「古代日本旋法による踏歌」と「箜篌歌」により知っていたが、これらの曲は一体どんな曲なんだろうと気になっていました。楽譜を探しましたが当時は絶版になっていたんですね。
そこで手に入れたのが全音のギターピースで出ていた「ギターのためのトッカータ」だったのです。





早速弾いてみたものの、結構現代曲風だったんですね。当時はそう感じました。楽譜の解説では民族旋法が根幹となっていると書いていますが、その頃の私が求めていた雰囲気とは少し違いました。
技巧的に難曲だったこともあり、全曲通しで弾くことはなく、日本旋法が強く感じられる部分だけを抜き出して弾いていました。
それから15年以上経ったでしょうか。再びこの曲に挑戦し始めました。丁度この時期は邦人作曲家の曲に強い関心を持っていた時期でもありました。
楽譜を見ながらですが何とか全曲弾くことができましたが、左手が非常に疲労する曲なんですね。その時期はホセ・ラミレスの弦長664mm、弦高5.5mm(6弦)のギターを弾いていたので、なおさら弾きとおすのが辛かったですね。
なのでその後レパートリーになることなく終わってしまいました。
しかし数ヶ月前からまたこの曲に挑戦し始めました。今は別のギターを弾いていることと、左手の脱力をかなり会得してきたこともあり、最初は左手の疲労度が高かったものの、次第にあまり疲労を感じなくなりました。
この曲を弾いていると実に楽しいです。別に楽しい曲だからというからではなく、曲想は全く異なるのですが、リズム感が何か、人の鼓動と共振するようで躍動感を感じるからではないかと思います。伊福部昭の曲はそのような曲が多いですね。
この曲の運指は作曲者自身が付けたようですが、最後の部分は指定された運指ではかなりきつい箇所があります。私は下の写真の手書きの運指に変更して弾いています。参考になれば幸いです。









なおこの曲の録音ですが次のものが出ております。

1.演奏:西村洋 録音:1985年 フォンテック



2.演奏:阿部保夫 録音1971年 東芝EMI



3.演奏:哘崎考宏 録音:2003年 ミッテンヴァルト



4.演奏:哘崎考宏 録音:2005~2006年 ミッテンヴァルト



5.大場悟史 録音:2008年 ライブ録音



お勧めは西村洋の録音。オーソドックスで手堅い演奏ですが、音の使い方が非常に熟考されており、運指も楽譜の指定をあえて変更している箇所があり、それが効果的聴こえるところがいい。テンポも崩れていない。
この曲を作曲者から捧げられた阿部保夫の演奏は、上記録音の中でテンポが最も速く、軽快な演奏です。阿部保夫が46歳の時の演奏で、技巧的にやや最盛期を過ぎた感じは否めないが、いい演奏だと思います。特に中間部のピチカートの演奏は非常に上手い。
哘崎考宏の演奏は2度録音されておりますが、音を楽しむのであれば2005~2006年の録音の方が聴き応えがあります。
この2度目の録音では、伊福部氏がギター製作の国際コンクールで優勝した河野賢氏か記念に贈られたギター(1968年製)により演奏されており、河野ギター初期の独特の音を聴く事ができます。
この河野ギターの音の特徴は、高音が澄んでいて強く芯があり、低音は深く力があり余韻があることですね。今の若い世代の薄っぺらいタッチだとたちうちできない楽器ですね。
昔はアポヤンド奏法が主流だったから、この河野ギターような楽器が多かったし、そういう楽器を使うことで音の出し方を学んだのだと思う。
大場悟史の演奏はテンポが全体的に崩れず軽快で、楽譜に忠実でありライブ録音でありながら模範的ないい演奏だと思います。ドイツ人の女性と結婚したようでドイツを拠点としているようです。日本で演奏を聴く機会は殆どないかもしれません。
なお、この「ギターのためのトッカータ」を野坂恵子氏が二十絃箏に編曲し録音を出しています。



野坂氏は伊福部昭のギター曲3曲全てを箏のために編曲(というか原譜そのままで)して弾いています。特に「箜篌歌」の演奏は超名演です。すごいですよ。
この「ギターのためのトッカータ」の録音もすばらしい演奏ですが、この箏の演奏を聴くとギターとはかなり響きが違って聴こえ、驚きを感じます。
箏はギターと違って音に残響があるのと、日本独自の楽器だからなのかもしれません。このトッカータを箏で聴くと、もしかして作曲者はギターではなく無意識に箏の奏法をイメージして作曲したのではないかと感じてしまう部分があります。これは「古代日本旋法による踏歌」の箏の演奏を聴いたときも同じように感じますね。
伊福部昭の独奏曲は西洋のしかもスペインの楽器であるギターよりも、日本の伝統楽器である箏の方が自然に適合するのかもしれません。

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