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世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

涙の味

2013年07月05日 | Weblog
他部署のI江姐さんが辞めることを知ったのは、ちょうど実家で夕ご飯を食べている時…先週の日曜日だった。
あまりのショックにどう返信しようか悩んでしまった。

2001年、私は店舗から本社に異動になった。
その時の裏歓迎会にて、席の端っこで煙草を静かに吸っていた彼女こそI江姐さんだった。
右も左も分からぬ私にさり気ない優しさで接してくれた。
I江姐さんは超神経質で私とは合わないと誰もが思ったと思う。
しかし、「下妻物語」の桃子とイチゴがそうだったように、水と油は上手く化学反応を起こした。
当然仕事で怒られたこともあったし、逆に私が切れて喧嘩をしたこともあった。

仕事で嫌なことがあると、仕事中の彼女に愚痴を話し、「まあこれでも舐めなよ」とキャンディーを渡されたこともたくさんあった。そして決まって「どうしたの?」と話を聞いてくれた。
一緒に鬼怒川や京都に旅行に行った。京都で嫌がる彼女に舞妓のコスプレをさせたことも記憶に新しい。

会社の女子会があっても彼女は気高いので易々とは参加しない。
「亮子ちゃんの隣の席を空けておきますのでぜひ参加してください」
と主催者が彼女に頭を下げるほど、彼女は人見知りが激しく、周囲に人を寄せ付けない。
そんな彼女だが、仕事がすこぶる出来るので、妙なカリスマ性を持っていた。


辞めるとメールを貰った時に感じた事は、憤りである。
こんな私を置いてどうして彼女は辞めてしまうのだろう、と。
それは哀しさの延長線上にある憤りで、正直、いまだに消化できていない。


もう一つは、申し訳ない気持ちだ。
彼女が辞めようとシグナルを発信していたのは、ちょうど私が秘書検定の勉強で忙しい時だった。
あのとき、彼女とお茶をして話を聞いていれば、彼女は辞めなかったかもしれない…。
散々世話になっておいて、私は結局自分のことしか考えていなかった。


今日も制服の件で忙しかった。
全店から制服が戻ってくるのである。それを一つ一つ確認する。
一人で小部屋で作業していると、I江姐さんがもうすぐいなくなることを考えてしまい、涙が出てくる。

泣くまい。
笑顔で送り出すんだ。
私が泣いていたら思慮深い彼女は恐らく心配してしまうに違いない。困ってしまうだろう。
気持ち良く送りだすのが私の最大のミッションじゃないか。
そう思えば思うほど、涙が滲んできてしまう。その度に歯を食いしばる。
…一人でよかった。

10年ぐらい前。
彼女とシャノアールのパフェの話をしたことがある。
「今度一緒に食べたいですね」
と話した。
しかし、もう気付けば10年が経過していた。
辞める前に食べましょうという話になり、今日は定時後、喫茶店デートをした。

彼女は最初、ネコ好きだった。
しかし、私の影響で今はクマ好きに。
今日はクマを持ってきてもらった。
彼女の机にいたクマ2匹である。




彼女の辞める理由の経緯やこれからのことを聞いた。淡々と聞いていた。

場所を変えてファミレス。
ここでも淡々と彼女の話を聞いていたのだが、「先月秘書検定前にちゃんとお話を聞けなくて申し訳なかった」ということを話していたら、涙がぶわぁぁぁぁと出てきてしまった。ダム決壊。
「いいんだよう」と言いながら彼女も嗚咽。
二人で化粧が剥げるぐらい号泣。
周囲の客、どん引き。
アラサー、アラフォーの女性が、ファミレスで涙と鼻水をだらだらと流しながら嗚咽しているのである。
これは驚異の光景である。



20年の会社員生活を終え、新たな世界に飛び立つ彼女。
会社中心の生活をしていると、つい目先の事しか考えなくなる。
いざ会社を辞める決意をして己を振り返ると趣味も何もないことに気付く。
退職は一つの転機だと思うの。
ほら、うちらって結婚も出産もしていないわけじゃん?
毎日の単調な会社生活で転機もなにもないじゃん?
ここで自分で転機を作ることも必要かなと思ったんだ。

とのこと。


そして、彼女はベルばらの大ファンだ。海外旅行はアジアを中心にけっこう行っているのだが、フランスには行ったことがないらしい。退職したらフランス旅行に行き、それからやりたいことをじっくり考えるとのこと。
一人暮らしもしたいし、本も読みたい。学校に行って勉強もしたいと言っていた。
最後は「退職マンセー」みたいな雰囲気になっていた。

しまいには「私のお墓の前で泣かないでください~♪」と歌いだすI江姐さん。爆笑。

彼女は、私が一人で広島や海外旅行に行くことが信じられないと言っていた。
また他部署の人とも打ち解ける性格がずっと羨ましかったと。
…一人旅は、集団行動ができないだけ。
…打ち解ける性格は、適当なだけ。総務という仕事の性質上、他部署とのコミュニケーションが必要で、知らず知らずこうなったわけで、決して外交的な性格ではないことを述べた。


泣いて笑って、笑って泣いて。
気付けば終電間近。

すっかり剥げかけた化粧をてらてらさせ、駅のホームで明るく別れた。


まだ気を許すと泣きそうになってしまう。
我慢した涙が逆流して、口の中に涙が広がる。

でも彼女を送り出すときは笑顔でいたい。

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