晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

広川純 『一応の推定』

2011-11-01 | 日本人作家 は
この作品は、第13回松本清張賞受賞作品で、名だたる選考委員が
全会一致で決まったそうです。
実際、読んでみたら、よくある「新人の荒削りな所もまた魅力で」
といった部分はなく、なんといいますか、すでに貫禄のある文体
というか雰囲気。それもそのはず、作者略歴を見たら、この作品
を書いたのが60歳。
作家としてのキャリアではなく、人生のキャリア、ですか。

タイトルは、保険会社の用語で、たとえば契約者が死亡して、その
死因が事故か自殺か判断が難しいとき、

「自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な
自殺の状況が立証されればそれで足りること、すなわち、その証明が『
一応確からしい』という程度のものでは足りないが、自殺でないとする
すべての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られる
ものであればそれで足りる」

ということ、です。

滋賀県のJR膳所駅で、60歳の男性が電車にはねられて死亡。
亡くなった原田勇治という人は、大阪市内で工場を経営、運転手の証言
では、線路上に黒い何かがあって、ブレーキを踏んだが間に合わなかった
ということ。

そこで、原田の遺族から、保険会社に傷害保険の請求が。保険会社は
事故調査の会社に依頼。事故調査員でもうすぐ定年の村越は、他の社員
が忙しく、これを最後の仕事として引き受けることに。

保険会社の人がいうには、原田は生前、夫婦で旅行に行くので保険に
入っておきたいと代理店の外交員に話をしていて、それが事故の起きた
12月末からわずか3ヶ月前のこと。
そして、原田の身内の話。原田には、重い心臓病でアメリカで移植手術
をしなければ治る見込みのない孫娘がいて、保険が下りて、それを渡航
費用にしようとしたのでは、つまり自殺の可能性があるというのです。

そこで、保険会社、村越、原田の遺族と代理店の話し合いに。遺族は
夫は自殺なんてしないの一点張り。
村越と、保険会社から勉強のためにと若い竹内の2人で、さっそく調査へ。

まずは事故現場の駅。原田は線路に落ちる前に、手提げかばんをホームの
柱へ寄せるように置いていたのです。これは、遺体の損傷が激しかった場合、
身元確認がすぐできるように原田がしたことでは・・・

さらに調べを進めてくと、自殺を裏付ける証言、あるいは証拠が出てきます。
若い竹内は、保険会社の人間なので、傷害保険の適用外となる自殺である
ことが望ましいのですが、村越はそんな考えを諌めます。

はたして、原田は自殺だったのか、それとも事故か、村越と竹内はどう
結論を出すのか・・・

まあ、ここまであらすじを書いたのですが、派手なアクション無し、うーん
と唸るような謎解きも無し、淡々と話は進んでいきます。
これで読ませきるというのは並みの腕ではありません。ヘタをすれば「保険
業界のこんな件例というレポート」になってしまいますからね。

選考委員の宮部みゆきさんの「地味が滋味に通じる堅実な魅力」とは
まさに。
ホームランやノーヒットノーランがだけが面白い試合じゃないよ、と
含蓄のある大人が教えてくれたような、そんな本です。
コメント
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