晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

馳星周 『虚(うつろ)の王』

2011-11-23 | 日本人作家 は
馳星周の作品を読み終わるたびいつも思うことは、また読んでし
まった・・・という軽い後悔といいますか、しかし不思議なもの
で、読んでる最中はぐいぐいと文中に引きつけられて、気がつく
と、また作品を手にして、読んで、軽く後悔、というスパイラル。

たんなる「不愉快な内容」というだけでなく、そこにはきちんとし
た時代と背景が描かれていて、今まで読んだ作品に共通する、主人
公の落ちぶれていく様、そのスピード感が、なんといいますか、読
んでる側なのに「よっしゃ、こっちも乗りかかった船だ、最期まで
見届けてやるよ」という気持ちになってくるのです。

かつて渋谷で最強のチームだった「金狼」のリーダー、新田は、ある
揉め事でヤクザを刺してしまい少年院行きに。出所して、現在は他の
ヤクザのもとで世話になり、覚せい剤の売人に。

そこで、兄貴分から、渋谷で高校生の売春組織がはびこっていて、どう
やらそれを仕切っているのが高校生という噂を耳にして、その高校生を
捕まえて売上げと顧客データを持ってくるように新田に命令。

さっそく、渋谷にある高校生の溜まり場になっているクラブに行くと、
適当なガキを捕まえて、組織を仕切っているエイジという男子高校生
と、ノゾミという女子高校生の連絡先を聞き出します。
どうやら話によるとそのエイジという高校生は誰もが恐れをなしている
ようで、ケンカの腕に自信のある新田は、どれほどのヤツか興味を持ち
ます。

まずはノゾミのほうから攻めてみようということで、探しあてたのですが
、そこには夜の渋谷には似つかわしくない格好をした女性が。潤子はノゾ
ミの高校の先生だったのです。新田は潤子とクラブに入っていきノゾミを
探し出し、外へ連れ出します。

どうやらノゾミもエイジを恐れているらしく、しかし新田は脅しつけて、
エイジと会う約束をとりつけることに。潤子は教師として、いち生徒の
ノゾミの心配をしているというよりは、同性愛的にノゾミに興味があり
そう。それを知ってノゾミは潤子の家に泊まらせてもらうことに。

エイジの住所を聞いた新田は、エイジの家に侵入し、家の中にいたエイジ
の母親を縛り、部屋に行って、エイジのパソコンを盗み出して、パソコン
に詳しい先輩ヤクザにパスワードを解いて中のデータを引き出してもらう
ように頼みます。

新田はエイジとカラオケボックスで会うことになったのですが、そこにいた
エイジの連れたちは、エイジの仲間というよりは、彼を恐れて周りに群れて
いるだけのよう。

なんとエイジは開口一番、自分は新田さんに憧れていると言うのです。しかし
そんなことはお構いなしに新田はエイジを殴る蹴るの暴行、エイジはひたすら
「パソコンを返して」としか言いません。まるで痛みを感じないかのよう。

これ以上殴り続けても無駄で、関わりあいたくないと思い、新田は、パソコン
の解析をお願いしていた先輩のもとに。そもそもこの先輩というのが新田を
毛嫌いしていて、マンションを訪ねた新田はウイスキーの瓶で殴られます。

意識の戻った新田は、先輩ヤクザの愛人からパソコンを受けとると、このまま
自分はヤクザの飼い犬で暮らしていくのが急にばかばかしくなって、パソコン
をエイジに返し、さらにいっしょに組んで金儲けしようと・・・

しかし、そう簡単にヤクザの世界から抜けられるわけもなく、ここからお馴染み
の、ちょっと欲を出して今の絶望的な生活から抜けようと思って、それが逆に
とんでもない事になって追われることに・・・という、まあ自業自得といいますか。

エイジは、一見どこにでもいそうな青年で、進学校に通う、勉強のできる
高校生なのですが、いったい何があって彼は渋谷じゅうの高校生が恐れる
存在になってしまったのか。
ノゾミは、今でいう雑誌の読者モデルのようなことをやり、自分がちやほや
されたいためだけに、通信制の高校にわざわざ通っています。渋谷では「女子
高生」というブランド無しでは歩くこともできないと思っています。
潤子は、そんな自意識だけは立派で中身はカラッポ、幼児性そのままで自我
むきだしの通信制に通う高校生たちを相手にするために教師になったのかと
いえばそうなのかと自問の毎日。
この3人に新田もあわせてそれぞれが家庭に複雑な問題を抱えていて、本来
落ち着ける場所というのがこの人たちには無く、心の中の歪みが修正のきか
ない状態になっているよう。

この世界が狂っていて、自分が一番狂っているから、狂ってる世界じゃ一番
まとも、というエイジの言葉。痛いですね。
コメント
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