晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

井上ひさし 『花石物語』

2023-01-15 | 日本人作家 あ

ついこの前までなにかとお騒がせだった青い鳥がシンボルのSNSですが、その代替として「マストドン」というSNSが話題ですね。青い鳥とマストドン、似てるようで全然違う、全然違うようで似てます。そんなことを言い出したらSNSじたいが多かれ少なかれどこかしら似てるもんだろという話なのですが。今まで、流行るとすぐに「○○疲れ」という言葉が出てきますが、これから出てくるSNSもそうなるのでしょうか。

おつかれさまです。

井上ひさしさんの名前はもちろん存じてましたが去年初めて井上ひさしさんの作品「手鎖心中」を読んで感動しまして、とりあえず数冊買ってみました。そのうちの一冊。

昭和20年代後半、大学生の夏夫は、東北の太平洋側の海岸沿いを走る汽車に乗っています。目的は母親の住む花石へ向かうため。夏夫は高校まで東北に住んでいて、大学進学のため上京。本命は銀杏のマーク(東大)、他にも稲穂(早稲田)とペンのぶっちがい(慶応)を受験しますが撃沈、鷲のマークの大学(上智)を受けて合格します。なんでも定員20名の枠に殺到した受験生は16名を数えた、とか。

夏夫は強烈な東大コンプレックスがあり、さらに被害妄想に拍車がかかり「他人と会話をしない」という自己防衛を身につけます。やむを得ず話をしないといけないときは言葉がうまく出てきません。つまり吃音症。というわけで気晴らしに夏休みを母と過ごすことに。

そんなこんなで花石に到着します。巨大な製鉄所があって、街は意外と賑わってます。母親は花石で一旗揚げようと屋台で飲み屋をはじめます。母親の住まいの真横が娼家になっていて、窓の外から娼婦と客の会話が丸聞こえで夏夫はびっくりします。のちにこのかおりという娼婦と交流することになります。

はじめこそ気晴らしで花石にやってきた夏夫でしたが、娼婦のかおり、「タイガー」という店の岩舘老人、母親の屋台のライバル店で働くニセ東大生、母親の屋台の常連客の鶏先生とマドロス先生、といった人たちと触れ合うことで徐々に被害妄想や自己否定の呪縛が解けてゆき、そのうち吃音も治ってきます。夏休みもそろそろ終わり、夏夫は東京に戻るのかそれとも花石に残るのか。

井上ひさしさんの来歴をどこかで見れば、この話はおおまかにですが夏夫は放送作家・劇作家になる前までの井上ひさしさんのことだということがわかります。で、花石とは岩手県釜石市。この小説の花石は、まるで山本周五郎「青べか物語」の舞台(浦粕)のよう。浦粕とは千葉県浦安市のことなんですけどね。

鶏先生が柳田国男「遠野物語」のパクリを書こうとするあたり、どこか民話というか逸話というか、ファンタジー感が漂ってます。そういえば宮沢賢治も岩手でしたね。岩手はファンタジーが生まれやすい土壌なのでしょうか。千葉県も「ジャガー星から来た」「こりん星のりんごももか姫」となかなかどうしてファンタジーですけどね。

コメント
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