晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『蝶の戦記』

2018-03-17 | 日本人作家 あ
「歴史に(たら・れば)は無い」とはよくいいますが、
ま、歴史に限ったことでもありませんけど、おそらく、
日本史上で最も多く「たら・れば」を論じられたのが
織田信長なのではないでしょうか。あ、もちろん私見
ですので「いや坂本龍馬だろ」「関ヶ原の合戦でしょ」
という意見もそれはそれで。

もし信長が本能寺で死んでなければ、世界初の産業革命
は日本で起こっていた(はずだ)という「たら・れば」
が個人的には好きなんですが、でもその一方、歴史は
必ず帳尻を合わす、ともいいまして、例えばヒトラー
を少年時代に抹殺しても、別の誰かが出てきてユダヤ
人の悲劇は免れない、というもの。つまり仮に信長が
天下統一して幕府を開いたとしても、そののちに鎖国
状態にはなったでしょうから、産業革命は起きなかった
ということですね。

さて『蝶の戦記』ですが、舞台は戦国時代、主人公は
甲賀忍びの(くのいち)於蝶。「織田信長に天下統一
をさせない」ということで於蝶とその一族がいろいろ
頑張ったのですが、この小説では、姉川の合戦(浅井
浅倉との戦)から長篠の戦い(武田勝頼との戦)と、
そのちょっと後までですので、この時点では信長はま
だ死んでいません。ということは物語的に「甲賀忍び
が信長の首を!」みたいなことにはなりませんよね。

尾張の国、清州の城下に住む弓師の父娘が突然引っ越
します。じつはこの父、甲賀忍びの新田小兵衛、娘は
小兵衛の姪の於蝶だったのです。
この前年、「桶狭間の戦」で、四万の兵を率いた今川
義元に、わずか数千の兵で奇襲を仕掛けた織田信長が
勝利します。小兵衛と於蝶は今川家のために諜報活動
をしていたのですが、甲賀へ戻ることに。

甲賀に戻った小兵衛と於蝶に、頭領からさっそく新たな
指令が。それは「越後に行ってくれ」というもの。
つまり、関東管領・上杉政虎(謙信)のために動くこと
に。
まだこの当時は、いちおう足利将軍はいるにはいたので
すが、もはや政権運営の機能はしておらず、ここに天下
取りレースが絡んで、各地で戦が起きます。上杉謙信も
天下取りレースの優勝候補の一人で、関東管領に就いた
のも京の都に対する忠誠心アピールのためだったとか。

謙信のライバルといえば甲斐の武田信玄。上杉家の家臣
などは、ひとまずは武田も関東の北条も放っておいて、
北陸を攻めて上洛しようではありませんかと謙信に提案
しますが、良くも悪くも一本気で真っ直ぐな性格の殿は
「自分は関東管領だからまずは関東の平定」とのこと。
つまりこれが何度も何度も戦って、結局勝敗はつかずの
「川中島の戦い」ですね。

破竹の勢いの織田信長ですが「いま上杉や武田と戦って
も負ける」と思っていたとかで、国宝に指定されている
狩野永徳作「洛中洛外図」は、京の都に憧れていると噂
の謙信に信長が贈ったものとされています。

小兵衛と於蝶は、上杉家の(軍師)宇佐美定行に面会し、
「上州前橋城の家臣、井口伝兵衛と息子の蝶丸」に変装
し、謙信のもとに。六年前に北条氏との戦での生き残り
親子(という設定)を前にした謙信は「あのときは、よ
うはたらいてくれた・・・」と感動をあらわにします。
昨日の敵は今日の友、今日の友が明日の敵になり、親子
といえども殺しあい、下克上、血で血を洗う戦国時代に
あって、こんなピュアな武将がいたのかと於蝶は感心し
ます。

そんな於蝶こと蝶丸は、謙信の小姓になります。小姓の
ひとり、岡本小平次に目を付けた蝶丸は、さっそく夜に
逢引きをします。この当時、男性同士の愛情というのは
むしろ(武士のたしなみ)といわれていたほどで小姓は
たいてい美少年でした。で、小平治は、蝶丸という新入
りの小姓が男ではないことにビックリしますが、あっと
いう間に女体におぼれこんでしまうのです。

忍びとしての活動で特別な場合は除き、甲賀忍びでは、
「恋愛禁止」となっていますが、於蝶はなぜ小平次を
手なずけたのか・・・

謙信が「何度目か」の武田信玄との戦を終えると蝶丸
は小平次に「またどこかで会いましょう」と言い残し
消えます。次の於蝶の行き先は、なんと信長の岐阜城。
ここで信長の夫人、お濃付きの侍女になります。
ある日のこと、信長がお濃の居室に来ると、新しい侍女
がいることに気づいた信長はじっと於蝶の顔をのぞき
「見たことがある」というではありませんか。そして
「清州の城下にいた弓師の娘だな」と・・・

とにかく読み終わって疲れました。読みにくいとかそう
いう意味ではなくて、池波さんもあとがきで書いている
ように「忍者小説は他の時代小説よりも書いていてつら
い。主役が忍びなら相手も忍びで思うことを敵は知りつ
くしていて、その裏をかくことも敵は予知している場合
も考慮に入れる」というのです。やっぱりそういうのが
読者にも伝わるのでしょうかね。
ですが、あとがきには「めんどうなジャンルではあるが、
それだけに執筆中のたのしみも多い」と続き、この部分
も読者には伝わっています。
コメント
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