晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(十一)異館』

2018-01-17 | 日本人作家 さ
小説にせよマンガにせよ、敵と戦う系のシリーズもの
だと、回を重ねるごとに敵側がパワーアップしていき、
人間離れを通り越して最終的には「アンタ人じゃない
じゃん」ってのと戦って、ということは主人公側も回
を重ねるごとにパワーアップしていくというのは仕方
がないのかなと思いつつも、この「吉原裏同心」シリ
ーズはそういう方向に行ってほしくないなあと願うの
であります。

さて、今作は『異館』。神戸に「異人館」があるのは
有名ですが、つまり、外国風の、見慣れてるものとは
異なる館、ということですね。

天明八(1788)年、京都で未曾有の大火事が発生しま
す。四条大橋近くの「団栗辻子(どんぐりのづし)」
から出火したということで、「どんぐり焼け」などと
呼ばれたそうな。ちなみに「辻子」とは図子とも書く
そうですが、京都の小さな通り、生活道路で、こちら
は通り抜けができる通り。一方「路地」は行き止まり、
袋小路になってる通りのことを指すそうです。

前作「沽券」で、引手茶屋の乗っ取り問題の首謀者を
追って、神守幹次郎は相模の真鶴まで行って、帰って
きたところからスタート。吉原会所の仮宅で報告を済
ませ、帰り道にいきなり「そなたが吉原裏同心か」と
言って海坂玄斎と名乗る男が勝負をしかけてきます。
そこに会所の人が来て海坂は消えますが、これも吉原
乗っ取りの一味なのか。

幹次郎が江戸にいない間に、古一喜三次という上野(
現在の群馬県)桐生の織物職人が会所の四郎兵衛に面会
を求めてきます。桐生は東の織物の一大産地ですが、近
年は京織物と肩を張るほどに品質が向上してきていて、
京といえばこの度の「どんぐり焼け」で織物の生産がで
きなくなり、職人が桐生に移ってきています。
そこで古一は江戸に桐生織物の店を出し、さらに吉原の
花魁衆に桐生織物を着てもらおうと申し出に来たのです。

吉原は現代でいう「風俗街」なだけではなく、当時のあ
らゆる文化流行の発信地でもあったので、そこで花魁が
西陣織ではなく桐生織物を着て花魁道中でもしてくれれ
ば売上げアップ間違いなし。ところが薄墨太夫は申し出
を断ります。
古一という男がどうにも胡散臭いので、幹次郎は古一の
店に行くと、なんと相手は幹次郎の顔も名前も先刻承知。

それとは別に、吉原の客と思われる武士の辻斬りが発生。
捜索を進めていくと、肥前対馬藩重臣の娘が浮上。この
娘、名を「玉蘭」といい、なんでも男装で吉原に登楼した
ことがあるそうで、幹次郎はなんとなく対馬藩江戸屋敷に
行ってみると、夜中に女性がひとり立っています。すると
「神守幹次郎どのか」といって、斬りかかってきます。
幹次郎は相手の攻撃をよけつつも女の衣を切ります。その
衣の切れ端は白檀の香りがしみ込んでいて、じつは武士の
辻斬りの現場にも白檀の香りが残っていたのです。さらに
衣には金襴が縫い付けてあり、これを見た幹次郎は、この
金襴は古一の見世で見かけたようだと・・・

これはたんなる古一の野望なだけなのか、それとも未だに
田沼派の残党が裏で糸を引いているのか。これに、朝鮮と
の交易が不振で赤字まみれの対馬藩の重臣の娘がどう絡ん
でくるのか。そして幹次郎は異形の館へ・・・

それはそうと、幹次郎は四郎兵衛からあるお願いを頼まれ
ます。それは、老中、松平定信が京の火災の復興計画の指
揮のため京に上るさい、幹次郎を随伴させよとの直々の命
があり、四郎兵衛もいっしょに京へ行くことに。
いつぞやは定信の側室を奥州白河から江戸に移すボディー
ガード役をしたときにもあの手この手の攻撃があったので
すが、今回の道中もそれのさらに上をいく攻撃が・・・
というのが冒頭に書いた懸念。
コメント
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