晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

平岩弓枝 『橋の上の霜』

2015-06-28 | 日本人作家 は
「御宿かわせみ」シリーズ以外の平岩弓枝作品も徐々に書棚に増えてきました。
さて、『橋の上の霜』ですが、主人公は四方赤良、のちの蜀山人です。じっさい、読むまで「誰だ?」状態でしたが、江戸時代に流行した狂歌師であり文人。ですがこの小説では彼の本業である下級武士、大田直次郎の側面を描いてます。

ちなみに「狂歌」とは、五七五七七の短歌形式なのですが風刺、皮肉、滑稽の要素を入れた、まあ今でいうならラップでしょうかね。違いますかね。

代表例でいいますと
・白河の清きに魚のすみかねて もとの濁りの田沼こひしき
これは、寛政の改革で庶民の暮らしがきつくなり、なんだかんだいって裏金や汚職が蔓延してた田沼意次時代が良かったな、というもの。
白河とは、田沼を失脚させた松平定信の領地である福島の白河。

・泰平の眠りを覚ます上喜撰 たつた四杯で夜も眠れず
これは浦賀に来航した黒船ですね。黒船の蒸気船と上喜撰という高級なお茶にかけてるんですね。

・世の中に蚊ほどうるさきものはなしぶんぶといひて夜もねられず
これは赤良の作品とされています。本人は否定しますがのちに政治批判で詮議を受けたりします。蚊の羽音「ぶんぶ」と世の中にかほど(これほどに)「文武」とうるさい、にかけてますね。

大田直次郎は御徒組、七十俵五人扶持という、まあ江戸在住の武士の中でも下級の部類。平和で、武士は武術や剣術で出世は望めず、文才ぐらいしか出世の糸口は無い、そんな時代。直次郎は文才があり、のちに幕府勘定所勤務の支配勘定という役職にまで出世します。

下級武士でありながら本を出版したり、パトロンがいたりと、それなりに遊ぶ金には困らなかったようです。が、おしづという吉原の遊女を身請けするのですが、さすがにそこまでのお金は無く、はじめこそ別邸に住まわせていたのですが、だんだんと懐具合が厳しくなってきてお金を借りたり、またおしづの心の病気もあって、なんと自分の家の離れに妾を住まわすというなかなかなダメ男ぶり。

そもそも遊女を身請けなど身分不相応なことをしたのは、おしづの別の客のご隠居がなんとおしづとお楽しみの最中に死んでしまうということがあり、しかもこのご隠居、そこそこの旗本家の人で、この家の当主が、おしづを身請けして尼さんにさせようとしていると聞いて、直次郎は先に身請けしたのです。まあ「男気」といえば聞こえはいいのですが・・・

病弱な直次郎の息子はおしづにべったりで、成長して健康になったらなったでよその家の女中に手をつけて子供ができたり、大田家はもはや家庭崩壊寸前。

一方、狂歌師四方赤良の側面では、同時代の版元として有名な蔦屋重三郎だったり、赤良が才能を見出したとして山東京伝が登場します。さらに、「南総里見八犬伝」の著者で、若き曲亭馬琴も登場します。先述した狂歌「世の中に蚊ほどうるさき~」で幕府に目をつけられたりもします。

ところで、この小説では、直次郎が息子に家督を譲るべく奔走しますが、息子が発作を起こしてしまい、これでは出仕は無理ということで、まだまだ隠居は先の話、というところで終わっています。一代記であれば、この後に大坂や長崎に転勤する部分が描かれるでしょうが、筆者あとがきで「晩年を書きたい」とあるので、本として出てたらぜひ読みたいですね。ちなみに赤良の辞世の句は「今までは 人のことだと 思ふたに 俺が死ぬとは こいつはたまらん」。





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